おいしくたべよう






「ん…」

躊躇いがちに唇に触れてきたそれは、なんとも甘い香りがした。

もっと――。

撫でるだけの触感が物足りなくてもどかしい。怯えるように小さく震えていたが、ナツはさほど気にせず、貪るために噛み付いた。
が、一瞬の差で感触は失われる。彼がその行動に出ることを初めからわかっていたようだ。

「なんだよ」

眉間に皺を寄せて非難めいた視線を投げかけてくる相手に、ナツは口を尖らせる。
ベッドに腰掛けたルーシィが面倒くさそうに足を組みかえた。

「味見だけって言ったでしょ」
「だから味見だけだろ?」
「ウソ。今齧ろうとしたじゃない」
「舐めるだけじゃわかんねぇもん。つか、まだ舐めてもねぇし」

もう一度、狙いを定めて口を開ける。ささっと遠ざかる獲物に、ナツの牙は空を噛んだ。

「ぷっ」
「笑ってんじゃねー」
「だあって」
「こうしてやる!」
「や、乱暴しないでよ!」

体重をかけたナツの手が、ベッドを軋ませる。
伸ばした腕は造作もなくそれ――プルーのペロペロキャンディ――を奪い取った。

「プーン!」
「ちょっと、ナツ!」
「ナツ、それは酷いよ」
「ちょっとだけだっての」

そう言って端を噛み砕こうとしたが、ルーシィとハッピーの半眼だけならともかく、プルーのつぶらな瞳にはさすがに罪悪感が押し寄せる。ナツは思い直してそれをぺろりと舐め上げた。

「……美味い」
「プーン!」

見た目は黄色やらピンクやら青色やらが絡まっていて、食べ物としてはいささか勇気の要る代物なのだが。
ナツは至近距離で目を凝らしてみたが、それぞれが何の味なのかは判別できなかった。舌に訴えてくる風味は、なんだかわからないが総合的にとにかく美味い。
キャンディをプルーに返しながら、ナツは唸った。

「こんな美味いの、お前らだけで食ったのかよ」
「ごめん」
「あい。ごめんね、ナツ」
「プーン」


今日ナツがいつも通りルーシィの部屋に侵入すると、ギルドで姿の見えなかった相棒が先に来ていた。
それ自体は良くあることだった。ルーシィに懐いている青い猫は、最近ではナツよりも彼女と一緒にいることの方が多いくらいだ。
あれ、と思ったのは、その場に居る全員が口に棒を咥えていたことで。
ナツを見た途端、ルーシィとハッピーは揃って顔に『ヤバイ』と書いた。その表情に頬を引き攣らせると、二人はしどろもどろにプルーに星霊界のキャンディを貰った、と説明。

『数が足りなかったから、さっさと食べちゃおうと思って』

まさしく急いで食べ終えたらしい。棒だけを手に可愛らしいつもりの渇いた笑みを貼り付けて、彼女達は小首を傾げた。

『まさかこんなに早く来るとはね』
『あい。5分も経ってないよね』
『食うの早すぎだろ、お前ら……』
『いやあ、美味しかったから、つい』
『そう言われっと、余計に食いたくなんじゃねぇか』

プルーのキャンディはまだ残っていた。また持って来るよ、と身振りで示す子犬(には見えない謎の生き物)に、味見だけでも、と交渉して――今に至る。

恨みがましく二人を睨むと、ルーシィはプルーの丸い頭を撫でながらバツが悪そうな顔をした。






たにしは飴は噛まない派


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