「でも、あんたがこんなに興味持つとは思わなかったわ」
「オレだけ食ってねぇの、やだし」
「寂しがり屋だね、ナツ」
「プーン」
「今度仲間はずれにしやがったら、」
「はいはい、泣かないの」
「泣いてねえ!」
人聞きが悪いにも程がある。
しかしナツの抗議は生温く流された。ルーシィは腹の立つ程優しい瞳でくすり、と笑う。
「可愛いわね」
「……むかつく」
ぷい、とそっぽを向いてもルーシィのくすくす笑いは止みそうにない。むぅ、と唇を尖らせて、ナツは彼女に顔を近付けた。
「え、ちょっ」
「ガキ扱いしてんじゃねぇ」
途端にそれまでの余裕ぶった表情が消え失せ、焦りが彼女の顔を占めた。しかしすぐに持ち直して睨み返してくる。
「何の気なしにこんな近寄ってくる時点で、立派なガ、キ、よ!」
「あ?」
強調した物言いに片眉が上がる。ナツは言い返そうと息を吸い込んだ。
「……ん?」
甘い。
肺を満たしたのは、先ほど味わった砂糖菓子の匂いだった。
出どころは考えるまでもなく、目の前の淡い桃色。それは不満げに引き結ばれてはいても、キャンディとは比べようもなく柔らかいだろう。
毒気を抜かれて、ナツは吸い寄せられるように身体を傾けた。
「――……」
「ちょ……ちょっと!?何してんの!?」
今度こそ本気で慌てた声が上がった。顔面を手で押しのけられながら、ナツは質問に答えてやる。
「味見」
「あ、ああああ、あじっ、味見ってっ」
「なんで暴れてんだよ、大丈夫だっての」
「な、ななな、何がよっ!?」
「齧んねーから」
「そういう問題じゃない!」
「いてて!?刺さるっ!」
プルーの尖った鼻で胸を押し返されて、しぶしぶルーシィから距離を取る。
二人から逃げるように床に降り立ったプルーの横で、ハッピーがくふくふと揺れた。
「でぇきてぇる"」
「プゥゥーン」
「うおっ、巻き舌へったくそだなあ、プルー」
同意を求めようとルーシィを見ると、彼女は彼女でナツを凝視していた。ベッドの上で腰を抜かしたようにぺたりと座り込んでいる。
「味見って、味見って……」
「だって、イイ匂いすっから」
「んなっ」
「いやあ、アレ美味かったな。プルー、今度マジで頼むな!」
「……もしかして、キャンディの話?」
「?当たり前だろ?」
「なんだ……ルーシィの口臭かあ。ナツ鼻良いもんね」
「ちょっと!嫌な言い方しないでよ!」
大人しくなっていたかと思えば、怒って大声を出す。とは言え、顔は赤く染まっていても本心から怒っているようには見えない。
ヒゲを引っ張られてみにょ、と伸びたハッピーと涙目のルーシィに、ナツはにか、と笑ってみせた。
「ルーシィ、ホント面白ぇな」
「あい」
「わかっててやってんじゃないでしょうね……」
じとり、と視線を向けてくるルーシィの足元で、プルーが一声鳴いた。
「プーン!」
「?」
注目を集めてから、ぴこぴこと全身を使って奇妙な動きをしてみせる。
曰く――『味見だけで、我慢できないでしょ?』
ルーシィとハッピーがナツに目を向けた。
「プルー、なんて?」
「わかんね」
意味がよくわからない。
「……ガマン、しただろ?」
キャンディだって齧らなかった。ルーシィを齧ろうとは思っていない。
プルーは愛らしい造作を器用に歪めて、ニヤリと笑ってみせた。