「おお、良いモン食ってんな」
ナツとハッピーがルーシィの後ろから煌びやかな箱の中を覗き込む。
「食べる?」
「おう!」
「ん、ちょっと待ってね」
ルーシィは箱からハート型のショコラを一個取り出すとそれを自分の口に銜えた。ついでもう一個、幾何学模様の入ったショコラを取り出して右手に確保する。
「ルーシィ意地汚いよ」
箱を渡されたハッピーが呆れたように言うが、渡したら自分の分は無くなると普段から刷り込まれているルーシィは、悲しいかな自分の行動にむしろ誇りさえ持った。
意地汚いんじゃない、学習してるのよ!目だけでハッピーを威圧する。
しかしナツはルーシィが口に銜えたハート型をひょい、と摘まみ上げ、そのまま自分の口に放り込んだ。
「な…」
自由になった唇から呆然と言葉が漏れる。右手のショコラはころん、とカウンターを転がった。
「ん、うめぇ」
ナツは呑気に咀嚼して飲み下すと、ハッピーの持つ箱に手を伸ばした。
「なんであたしのっ!?」
ナツの喉の動きに男を感じて多少以上に赤くなるが、それに悟られないよう気丈にナツを下から睨んだ。どうしてそんなことが平然と出来るのか。ルーシィのかじった物ならともかく、ルーシィが今銜えていた物なのに。
激しく主張する心臓を押さえて、言い分を待つ。
ナツはきょとん、と座るルーシィを見下ろした。
「ルーシィが真っ先に取ったから、それがうめぇのかと」
「ああああ!もうやだ!もうあんたには騙されない!」
いつも通りの飄々とした態度にルーシィの鬱憤が爆発する。
「は?どうしたルーシィ?いきなりなんだ?」
「まぁ落ち着いてルーシィ」
ミラが見かねて手を振った。そうね、と何か考えて、涙目のルーシィ――ではなく、ナツに向き直る。
「例えばね、ナツ。グレイが銜えたお菓子食べる?」
「んなわけねぇだろ。グレイのなんか食べたら露出狂が移る」
「エルザだったら?」
「勘弁してください」
ひゅ、と音を立ててナツが青褪める。ミラは満足したように頷くと、核心に触れた。
「じゃあなんでルーシィのは良いの?」
「…ルーシィだから?」
自信なさげに答えるナツ。
「なんかあたし搾取されて当然、みたいじゃない…?」
答えにがっくりと肩を落とすと、ミラとハッピーが気の毒そうな目をした。
「ルーシィの着地点もズレてるわね…」
「あい。きっとナツの態度が悪いんだよ」
「オレ?」
いくつめかのショコラを口に入れながら、ナツはことん、と首を傾げた。んー、と唸って今まさに自分の唇に触れたショコラを摘まみ直し、ルーシィの唇に押し付ける。
「ホラ」
「んっ…!?」
ナツは仕方ねぇなぁ、とでも言うように、驚いて口を開けることすら忘れたルーシィの顎を取り――唇を指で割った。間髪入れずにショコラを押し込む。
「これでおあいこ、な」
ナツは言いながら濡れた指をちろり、と舌で舐めた。
熱の上がったルーシィに対して、無邪気に笑うナツには、やっぱりそれ以上の感情なんか見つからなくて。
「ばかぁああああっ!!」
「ぐもっ!?」
ルーシィはナツ目掛けてバッグをフルスイングした。