「お、これ美味い!」
ナツがワゴンで購入したホットドッグに齧り付く。
天気の良い昼下がり、公園で大道芸人が来るという噂を聞き。
ナツとルーシィはハッピーがグレイとエルザを呼びに行ったのを待っていた。
奥のベンチには鳩に餌をやるお爺さんが、何度も餌をねだる気の強い鳩を杖で追いやっていて。
子供達は噴水の中を指差して笑い合っている。
平和な風景に目を細めながら、
「そうね、外で食べると美味しいわよねー」
ルーシィは隣の屋台の生チョコバナナクレープを頬張る。とりあえず一番人気を購入するのがルーシィのジャスティスだ。
「おう!ホレ、ルーシィ」
「へ?」
呼ばれて振り向くと、ナツは満面の笑顔で食べかけのホットドッグを差し出している。
こいつ本当にわかってない、と思いつつ。ここで躊躇したら自分だけ意識しているみたいで悔しいので。
ルーシィはクレープと反対の手でホットドッグを受け取る。
――つもりだったのだが。
「ホレ」
さあ食べろ、と言わんばかりにナツはルーシィの手を素通りして口元に突きつけてきた。
ナツの歯形がくっきりついた、ホットドッグを。
「ちょ…」
これはない、と余裕を取り落として文句を言いかけた瞬間、開いた口にホットドッグが突っ込まれる。
「っ!っむ…」
仕方ないので小さく齧り取り、ナツを睨む。が、
「美味いだろ?」
ルーシィの頬の赤さなんて完全に気付かない様子で、ナツが笑う。
「…美味しいわよ」
嘘だ。味なんか全然わかんなかった。
飲み下して唇を舐めると、ケチャップの味。
「ルーシィのもくれよ」
ナツがクレープを持った手を掴んで引き寄せ、大きく一口齧る。
ルーシィのものより、随分大きい歯形が付いた。
ナツから開放されたクレープをまじまじと見つめ、活動を止めた肺と脳に慌てて酸素を送る。心臓だけは勤勉で引っ切り無しに働いているのに。
ナツはいつも通り無邪気に、子供みたいに笑っている。
「お、これも美味いな」
その笑顔がルーシィの心を包んでいく。否応なしに、雪崩のように襲ってくる感情の波に溺れそうになる。
――認めれば、楽になれる?
負担のかかりすぎた心臓を押さえる。
苦しい。痛い。もう知らない振りは出来ない。
認め――
「どした、顔赤いぞ?腹でも下したか?」
顔面にクレープを投げつけた。
ナツの悲鳴で鳩が一斉に飛び立った。