「うぉああああ!?」
ナツはばばっと高速で体を起こし、そのまま後ろ向きにベッドから転がり落ちる。ドシン、という大きな音に反射的に目を瞑った。
止まっていた思考回路がその速度を取り戻す。ナツの慌てぶりに、ルーシィは妙に冷静に状況を分析し始めた。
ナツが、押し倒してきた。あの、ナツが。ルーシィを。
「……ナツ?」
静かになったことに一抹の不安を覚え、ようやく身を起こした。Tシャツの裾が下着こそ露わではないものの捲れあがっていて、今更ながら赤面する。
あんな風に押し倒されたのに、自分は確かに拒めなかった。それどころか、ナツの体温に釣られて体が熱くなるような――。
思い出してまた熱が上がる。まるで自分の体じゃないみたいに。
頬を手で挟んで、ふと棚を見ると、倒れたオブジェに魔方陣のスイッチが切られていた。そういえば紫の光が止まっている。
「……」
つまり、それが原因。あの光のせいで、ナツがあんな男の眼差しでルーシィを。
理解してしまえば気が抜けるとともに酷く――落胆した。
「ルーシィ…」
後ろから遠慮がちに声がかかる。
「お、オレ…あの……悪ぃ」
ああ、謝っちゃうんだ。当然だけど。
なんだか説明のつかないイライラを感じる。
不機嫌に目を細めて視線をやると、ナツはベッドの横に座って声をかけていた。桜色の髪が揺れている。
「…なんで座ったままなのよ」
「いや…まぁ…立てねぇし」
「は?…ぁ」
一瞬、落ちたときに打ち所が悪かったのか、と思ったけど違う。『男の事情』に思い当たり、下がったはずの熱がまた上がってくる。
「こ、こっち来んなよ」
焦ったような声にようやく溜飲が下がった。
「いつもは人のこと散々色気がないって言ってくれるくせに」
「う、うっせぇな!」
余裕を取り戻してからかうと、ナツは思った通り反発してきた。
さっき感じた苛立ちはどこかに行ってしまった。
状況は可哀想かな、と思ったので原因を教えてやろうと口を開く。と、
「我慢できなかったんだよ」
拗ねたように発したそれに、完全に固まった。
「な…何言ってんのよ…」
わかってる、光のせい。きっとこの部屋はそういう行為をする為の部屋だから。たぶんあの魔方陣は媚薬みたいなもので。説明しようと思うのに口が動いてくれない。
あたし――ナツに何を言わせたいの?
「ルーシィ」
「な、に?」
「そこ、危ねぇ」
ぴししっ。
言葉の意味を理解するより、壁に亀裂が入る方が早かった。