教授の朝






『ナツとハッピーの報告です。ターゲットに接触、ちょっと失敗、前途多難…大丈夫かしら。あの子達、こういう仕事初めてだものね。何か壊してなければ良いけど』

いつもの時間。ルーシィは昨日と同じ女性(ミラとかいったか)の声を聴きながら、ノートブックのキーボードを叩いた。

やはりあれはナツとハッピーのようだ。

猫が言葉を喋るのか、という疑問はあるが、それは横に置いておこう、とルーシィは人差し指を顎に当てた。とりあえず収賄容疑がかかっているのは間違いない。誰が依頼したのかは詮索したくないが、どうせ地位を妬んだ者の仕業だろう。しかし容疑は容疑、事実などない。何も見つからない場合はどうするのだろうか。

「まさかずっと居座る気じゃないわよね…」

1人と1匹は、結局午後もルーシィの部屋で、午睡を貪ったりその辺の本を引っ張り出したりしては、彼女の頭を悩ませた。
おかげで論文の進みが悪い。家まで仕事を持ち込んだのは久しぶりだった。
講座の人間には親戚だ、と話しておいたので何も言っては来ない。もっとも、怪しんではいるだろうが。

「かなり注目集めたし、もう来ないで欲しいな…」

口に出した言葉には嘘が多分に含まれていた。
ナツに会えたことは、正直に凄く嬉しかった。
強引で振り回されたが、やっぱりナツは真っ直ぐだった。行動が本能に直結したような、ルーシィの周りにはいないタイプだ。
ただ、収賄容疑云々よりも、隠し子だと偽ったことよりも、ナツが『ファイ』と偽名を使ったことが悲しかった。
ナツ、と呼べないことが悲しかった。
フェアリーテイルの報告を聴く内に、その一員にでもなったつもりでいたのだろうか。

『グレイの仕事は難航しているみたい。報告がターゲットの悪口みたいになってるけど…グレイがここまで言うんだから、よっぽどのことよねえ』

ミラに変わってから、ラジオが光を放っているようにさえ思える。キラキラとした可愛らしい声をBGMに、ルーシィは論文に没頭した。




「おはよ、ルーシィ」
「にゃー」
「……」

少し寝不足の目が朝日に刺される。ルーシィはげんなりと声の主達を視界に入れて、ゆっくりと進行方向に視線を戻した。が、どたどたとルーシィの前に回りこんで、同じ言葉を繰り返してきた。

「おはよ、ルーシィ」
「…おはよ」
「おう!」

朝から無駄に元気な笑みを見せる『ファイ』にぴきり、と青筋を立てて、ルーシィは肩越しに後ろのアパートを親指で示した。

「ここ、あたしの家だって何時知ったの?」
「昨日。帰りに尾行したぞ」
「それはストーカー行為で訴えてもいい?」
「送るって言ってんのに断るからだ」
「何それ!?そしてどうしてちょっと誇らしげなの!?」
「だってオレ、初めての尾行で成功したんだぞ?凄いだろ」
「あっそう、じゃあ蟻の行列でも尾行して練習してれば?」
「蟻に気付かれたら、ルーシィは蟻より下だってことになるけど、良いのか」
「……あんた結構口達者よね」

てくてくと大学に向かうルーシィの横を、『ファイ』とハッピーはのんびりと付いて来る。嫌な確信をしつつも、ルーシィは一応訊いてみた。

「どこに行くつもり?」
「ルーシィと一緒のとこ。家に入れてくれるまでは離れねぇからな」

どきり、と勝手に高鳴った胸に、ルーシィは視線を揺らした。大学には来ないで、という文句も飲み込んでしまう。
ナツの声に弱い。それはもう2ヶ月も前にわかっていたことだが、自分の名前が含まれると心がそれまでとは違う躍り方をする。
ルーシィは唇を舐めた。

「だから入れないってば」
「襲ったりなんかしねぇよ」
「そんなの当たり前でしょ!」
「なんだよ、そういうの警戒してんじゃねぇの?」
「う…。あ、漁るでしょ、汚すでしょ!」
「え、あー…わかった、気を付ける。だから、」
「入れない!」
「なんだよ、どこが悪いんだよ?」
「…あんたが男だってところかな」
「実は私、こう見えても女なんですぅ」
「きもい」

何故か酷くショックを受けてしゃがみ込んだ『ファイ』を置いて、ルーシィは足を速めた。

「にゃー」

ととと、とハッピーが小走りに付いて来る。それをさっと抱き上げて肉球に付いた砂を払ってから、ルーシィは独り言のようにぽつり、と零した。

「困ったなぁ…」

ハッピーがルーシィを見上げてにゃー、と鳴いた。

困った。付き纏ってくるのが、妙に嬉しい。

家に上げるのもきっと時間の問題だろう。緩みそうになる頬をハッピーに見られないように、狭い額に顎を乗せた。






絆されルーシィ。


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