「んー…」
「あ、ナツ起きた?気分はどう?」
「うん…」

なんだか口の中と喉がひりひりする。天井から枕元に視線を移動して、ハッピーの姿を捉えた。

「あー…外れたか」

薬草の匂いがする。あまり世話になったことはないが、医務室だとわかった。
隣のベッドにはなにやら魘されている黒髪が見える。

「どのくらい寝てた?」
「まだ5分くらいだよ」

起き上がると、真っ先に居そうな人物が見当たらないことに首を傾げた。

「ルーシィは?」

自分が外れを引いたなら、ルーシィは無事のはずだ。目の前で意識を失った自分を放っておくとは思えない。

まさか何かあったのか。

不安を裏付けるように、ハッピーの顔が曇った。

「それが…」

ハッピーが言い切る前に、体が勝手に動いていた。ベッドを素早く下り、一瞬後には医務室の扉を跳ね開ける。

「ルーシィ!!」

呼び声はほとんど叫びだった。酒場の仲間達が、皆一様に青い顔をして振り返る。

嫌だ。やめてくれ。

「おい、ナツ!落ち着け!行くな!」

人垣に飛び込んだオレを抑えようと何人かの手が伸びてきたが、力ずくで振り払った。
やっと人垣が切れて、その金髪が見えた、と思った瞬間、

しゅっ、がつっ!

「っ!?」

後頭部を強かに打ちつけた。
訳がわからず起き上がろうと肘を立てると、足首に何か巻きついているのが目に入った。
半身を起こして見覚えのあるそれを辿ると、まず白い手が、次いでその先に満面の笑みが見える。

「…え?」

何故か冷や汗が噴き出した。脳が最大音量でアラームを鳴らす。
エマージェンシー、エマージェンシー。――敵接近、警戒セヨ。
微かに濡れた唇が、オレの名前を呼んだ。

「ナツ」

声が甘いなんて感じたのは初めてだった。ルーシィの声なのに、ルーシィじゃないようで。心臓がく、と鳴いた。
ルーシィは笑みを湛えたままゆっくりと近付いてくる。
無事だったんだな、とか、何で転ばせたんだ、とか。全て頭から吹き飛んだ。伸ばされた手が肩に触れ、足が呆然としたままのオレを跨ぐ。
瞬きも出来ずにいる内に、ルーシィは躊躇いもなく腰に座ってきた。思わずびくり、と体が揺れる。

「ルーシィ…?」

少し見上げる位置にあるルーシィの目が、ゆるゆると細められた。

「ナツ…」

甘い。溺れそうなほど甘い。知らずごくり、と喉が鳴った。甘味のせいか、痛みはもう感じない。紡ぎだした赤い唇に、呆然と惹きつけられる。

もっと、名前を呼んで欲しい。その声で。

「ルーシィ」

強請るように呼ぶと、ルーシィの唇が弧を描いた。

「誰が呼び捨てにしていいって言ったの?」
「…………はい?」

甘いままで問われた内容を、理解するまでに時間がかかった。
ルーシィの肩越しに、マックスとウォーレンが四つんばいになったままサカサカと逃げ出すのが見えた。2人とも涙目で、顔はギャラリー同様真っ青だった。
顎に細い指がかけられ、ぐり、とルーシィに引き戻される。
曰く――「視線を外すなんて許可してないわよ」






ご乱心ルーシィ。
起きたときのナツのセリフは1ページ目冒頭のルーシィと合わせてみました。



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