「んー…」
「早く決めろよ」
「うん…」

目の前に置かれた2瓶には、何の差異も見つけられない。ルーシィは結局、最初の勘を信じて自分に近い方の瓶を取った。

「こっちにする!」
「お、いいのか?本当に?」

ナツはにやりと口角を上げてもう1瓶を持ち上げた。その表情ににわかに不安に陥るが、ナツが本当に正解を見極められるのかどうかも定かではないのだ。
ルーシィは唇を引き結ぶと、ナツを半ば睨むようにして頷いた。

「あたし運だけは良いもの。自信あるわ!」

そこで初めてナツが手の中の瓶を不安そうに見やった。

ほら、やっぱりわかってなかったんじゃない。

「よし、それじゃあ、せーの、で同時に飲むんだぞ」

エルザが空になった瓶を片手に、腕を組んだ。





禁じられた遊び








宴の余興で始まったロシアンルーレット。ギルドの地下に眠っていた怪しげな魔法薬を混ぜたスリリングなそれに、何故か引っ込みがつかなくなった妖精の尻尾の魔導士達が次々と挑戦して――させられて――いた。
早々に外れを引き当てたグレイなど、何が入っていた液体を飲んだのか、30分経った今でも目を覚まさない。流れ作業のように医務室に運ばれていく屈強なはずの魔導士達に、順番を決めるクジで最後から2番目になったルーシィは、自分の番が来るまでに外れが全て飲み干されることを祈っていた。
しかしそんな都合の良い話はなく、外れは残り2瓶中1瓶。ルーシィか、それとも順番最後のナツのどちらかが、医務室行きとなる。
透明な瓶の中には、やはり透明な液体が入っている。覚悟を決めてきゅるきゅるとスクリューキャップを外すと、中から果実のような甘い匂いがした。ナツを見ると、軽くガッツポーズを取っている。変な匂いはしなかったのだろう。
滅竜魔導士であるナツは、自分の嗅覚に絶対の自信を持っている。しかし…ナツは見ていなかったのだろうか、ガジルが同じようにポーズを取ってがぶ飲みし、卒倒したのを。

「いいか?くれぐれも一気に飲むなよ。一口目はちゃんと味わうんだ。じゃないと死ぬぞ」

エルザの有り難い忠告に溜め息で答え、ルーシィは瓶を握り直した。
「ルーシィ頑張れー!」「ナツ、男を見せろー!」無事試練を切り抜けたギャラリーが、やんややんやと囃し立てる。
ナツは瓶を掲げてルーシィに目配せした。同じように掲げ、ルーシィもナツと視線を合わせる。
緊張にのどがごくり、と鳴った。

「せーの」

エルザだけじゃなくギャラリーも唱和した掛け声に、ルーシィはえいっと瓶に口を付けた。左手は縋るものを求めてスカートを握りしめる。
思ったよりも粘性の高い液体が、とろりと口内に入ってきた、途端。

「う…っ…!」

がちゃん!じゅっ!

ナツが倒れた。落とした瓶が割れ、中身が床に焦げ跡を広げていく。

「ナツ!」

ハッピーとエルザが駆け寄ってナツを抱き上げた。どこからか担架が運ばれ、その上にナツの体が乗せられる。

ルーシィはそれらの光景を歪んだ視界に捉えていた。

「外れはナツが引いたか」
「やっぱりルーシィは強運だな」

ざわざわと空気が揺れ、そんな声が聞こえる。いや、聞いてなどいなかったのかもしれない。
ルーシィは持ったままの瓶を口に付けると、ごきゅごきゅと音を立てて一気に喉に流し込んだ。ナツに気を取られていた仲間達が、ぎょっとしてルーシィを見る。
中身を飲み干したルーシィは、ゆっくりと瓶を下ろした。

「ルーシィ?」

恐る恐る声をかけた勇者・マックスは、次の瞬間床に這いつくばった。正確には足払いを受けて転がされたのだが、あまりの早業にそれとは認識できなかった。
マックスの、床上15cmの視界に、カツン、とヒールが入ってくる。

「ルーシィ様、でしょお?」

ルーシィの目は完全に据わっていた。
ぴたぴたと爪先で顎を撫でられながら、マックスは「はい、ルーシィ様」と返す。

涙声だった。






何飲んだ!?


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