Little Schemer


さっきから、男共の視線が一点に集まっている。その点には、いつも通りあの桜色の髪の滅竜魔導士と金髪の女。

「ちょ、待って待って待って! ナツ!!」
「なんだよ、耳元でうっせぇな」

盗むように走る目に気付いて――いないであろう間抜けな会話に、ガジルは見向きもせずに溜息を吐いた。

ボタンを掛けるのが苦手だろうが面倒臭かろうが、知ったことではない。

だが嫌でも話が聞こえてしまう距離で、あの焦れったいイチャつきぶり――そろそろ御免被りたかった。傍迷惑極まりない。

(つーか、あの猫は確信犯か?)
(イチイチ焚き付けやがって、鬱陶しい)

二階からわずかに視線を落としてみると、後ろから抱き込む格好で女のシャツと格闘しているところだった。無駄にデカい胸のせいか、前身頃がまったく合わない。

「届かねぇぞ? ルーシィ太ったのか?」

問うて、ブーツのヒールで容赦なく踏みつけられた。ナツは素足。期待を裏切らない悲鳴が聞こえて、ギヒヒと忍び笑う。

続いて起きた不毛な――勝負が何だの乳がデカいのが悪いだのという――言い争いにはまたもげんなりだったが、次に見たナツの行動には一驚を喫する。

腕を取ってルーシィに向き直ると、シャツの合わせ目を正面から掴んだのだ。
今度はボタンを外しにかかったらしい。

(おーお、意地になるねぇ。……アホ)

口の中で扱き下ろした。声に出せば聞こえてしまうだろう。否、ボタンに集中している今ならその心配もないかも知れないが。

二人に注がれる男共の視線が黄味を帯びてきたのに気付いて、もう一度カウンターの辺りに視線を落としぎょっとする。

(あん!? ……おいおい)
(あの野郎、触ってねぇか? チチに)

どうりで興奮するはずだ。目がぎらついて鼻息も荒い。――気色悪い。

「……やれやれ」

意地になるのは結構だが、もう少し回りを気にした方がいいとガジルは思った。

「ナツ、なんか襲ってるみたいだよ」

的確にツッコミながら、大して止めもしない猫は、やはり確信犯に違いない。
出来上がった茶番をぶち壊してやるべく、一声掛けようと息を吸った時、

「だぁああ!! 面倒臭ぇ――!!」

シャツが左右に引き分けられて、ボタンが弾け飛んだ。――ひとつ、残らず。

公衆の面前に顕わになったのは、女の素肌と谷間と、顔に似合わず色気付いた下着。
そして庇いようのない浅薄さだった。

「……アホが……」

ガジルの呟きは、思い切り振り抜かれた右手と男共の歓声に掻き消される。

あまりの愚かさに呆れすぎて、笑いだすことも出来なかった。腹に溜まったままのうんざりな気分にこの上なくうんざりする。

「痛ってぇ〜〜……。ちょっと力入っただけじゃねぇかよ、わざとじゃねぇのに」
「そういう問題じゃないよ、ナツー」

喜色を浮かべてハイタッチを交わし合う連中の盛り上がりをぽかんと見上げながら、真っ赤な紅葉を貼り付けた頬をさする。

「いや〜〜〜〜、ナツ! よくやった!」
「ぐあっ!? 酒臭ぇ、寄んなっての!!」

べろべろに出来上がったワカバが絡んでくるのを嫌いながら、改めて男達を見回す。
その視線の先には、レビィから大判のスカーフを借りている金髪の女がいた。

「……? つか、……あ――……?」

ルーシィに向けられる好色な視線が気に障ったのか、ぴくりと眉を吊り上げる。

「つか、何でお前らそんな見んだよ」
「何でって、男なら当たり前だろーがヨ」

ふうんと鼻で返事をして、

「ルーシィなんか、いつも裸みてーなもんじゃんか。別に珍しくもなくね?」

吐き出された台詞に、男共だけでなくガジルまでぴしっと固まった。意図としては、だから見るなと言いたいのだろうが――

(珍しくもなくね? ……って、オイ)

――逆効果だろ。バーカ。
愚行のオンパレードに飽ききって、口直しにネジを一つ口に放った。

「お前なぁ、ナツぅ〜〜〜〜……」
「あ? んだよ」
「どんだけチチ見てんだヨ、コラァ!?」

取り囲んだ男共が、一斉に飛び掛かる。大勢に殴られ蹴られ追い回されながら、

「オイ、ちょっ……何なんだよお前ら!?」
「羨ましいぞ、この野郎ぉおお!」
「お前みてーなガキがルーシィちゃんのチチを見慣れるなんざ早すぎだコラァ!」
「なっ!? だから、何でそーなる!?」

わけがわからず防戦していたナツも、一発二発ともらううちに攻勢へと出始めた。
そしていつも通り、きっかけさえ思い出せないようなただの乱闘へと移っていく。

「てか聞こえてますが? 最っ低ー……」

一連のやりとりを至極複雑な表情で見守りつつどん引きしている話題の女――せめて傍観者の自分くらいは同情してやろうと、ガジルは片手で目を覆った。

「あい、ルーシィ気の毒だね」

残った片目の視界に、既に避難を済ませている青い仔猫を捉える。

(誰のせいだ、……ボケ)

侮り難き小さな策士。
今後は少し注意しようとガジルは思った。









Absurd Loversのゆーくさまより、「もみじ」の途中〜その後小説を頂きました!

ちょ、ちょっとぉぉお!たにし、一行目で叫びましたよぉおおお!
まさかのガジル君!たにしの心の恋人ガジル君!!
う、うあああああん!!ガジル君ー!素敵過ぎる!まさかゆーくさまにガジル君目線を書いていただけるとは…!!え、何?たにし死期が近いですか?死相が出てますか?そんなもん知るかー!!死んだら幽霊になってネットカフェに出てやるわー!!
ああもう、ナツのアホ可愛いことと言ったら…!そりゃフルボッコですよ、たにしもこっそり混ざって蹴りたいですよ!そして微妙にオレの女的発言にも取れないこともない…なんて垂涎名セリフ!ハッピーの仕事っぷりも正当な評価を得られて(?)素晴らしい限りですね!
そして紅葉。たにしが本文中に入れられなかったタイトルを使っていただきましてありがとうございます。ああ…そうなんです、こういうのが書きたかったんです。

本当に、本当にありがとうございます!あいらびゅー、ゆーくさま!!



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