ルーシィを見るなり、ナツが眉間にシワを寄せた。
「なんか面倒くさそうな服着てんな」
「え?」
今日のルーシィはシャツと薄手のカーディガンにショートパンツとブーツ。特に変わった服装ではない、はず。
不思議そうに自分の格好を見返したルーシィに、ハッピーが言った。
「ナツはボタン苦手なんだよ」
「苦手じゃねぇよ、面倒くせーんだ」
ナツは頬を膨らませてハッピーと反対側を向いた。苦手らしい。
確かに今日のシャツは一般的なそれよりもボタンが小さく、なおかつ多い。ルーシィはにやり、と笑って、ナツの左隣に座った。
「子供みたいね」
「うっせ、面倒なだけだっつの」
「間違いなく苦手です、あい」
ナツのこめかみが引きつった。テーブル上のハッピーに食ってかかる。
「苦手じゃねぇよ!」
「じゃあやってみなよ」
ハッピーは平然とナツの視線を受け流した。
「おうよ!苦手じゃねぇって証明してやっからな!」
隣で始まったくだらなすぎる諍いに、ルーシィは一つ息を吐いて、バッグから読みかけの本を取り出した。否、取り出そうとした。
「――え?」
リストバンドをした左腕が、ルーシィの左肩に乗った。後ろから腕を回されている。恐る恐る右を伺えば、ナツが右肩に顎を乗せるところだった。
「え?え、え?」
桃色の髪が首筋を擽る。両手がルーシィの豊かな胸元に伸びて――。
「うわわわわ!?」
ルーシィは慌てて身を引こうとしたが、背中からナツに抱え込まれる体勢のため逃げることもままならなかった。
自分のものでない体温にパニックになり、手を叩き落とすことすら考えつかず、ルーシィはただひたすらに声を上げる。
「ちょ、待って待って待って!ナツ!!」
「なんだよ、耳元でうっせぇな」
憮然とした声がこちらも耳元で聞こえた。ナツは肩に顎を乗せたまま、ちらりとルーシィを見やる。
「うっせぇな、じゃない!何のつもりよ!?」
「何って…だからボタンだろ?お前、上まで留めてねぇんだから、留めさせろよ」
何を言ってるんだ、とでも言いたげな表情で、ナツがのたまう。ルーシィはだいたいシャツのボタンは上まで留めない。今日も例に漏れず、バストトップから下までしか留めていなかった。
「だからって何でこの体勢!?何で後ろからよ!?」
当然の疑問に、ナツはバツが悪そうな顔をした。
「いや、だって…」
「ナツは自分から見る方向じゃないと出来ないんだよ」
うっせ、と零す声がハッピーの返答を肯定していた。
本当に子供じゃない、とルーシィの気が逸れた瞬間に、ナツがルーシィを抱き寄せるように腰に腕を回し、体を密着させた。
「ちょっ…」
「いいから動くなよ」
ナツは真剣にルーシィのシャツに視線を落としている。耳元で囁かれたそれにぞくりとする背筋をなんとか諌めて、ルーシィはなおも抵抗を試みた。
「だ、だだだダメに決まってるでしょー!?」
「いいじゃねぇか、減るもんじゃねぇし」
「減…っ!?」
ナツは素早くルーシィの胸元のシャツをつまみ上げると、ボタンとボタンホールを合わせるように中央に向かって引っ張った。指先が素肌に掠る。喉がこくり、と鳴った。
ルーシィはもう見ていられずに視線を上に向けた。