ほどけない手






リサーナは焦燥に駆られながら、キッチンで食材をチェックしていた。
逃げる言い訳に煮物と言った手前、何か作らなければならない。明日作ろうと思っていたしぐれ煮にするか。いや、それだと煮る時間がそれほど必要ない。
結局、ポテトサラダも止めて肉じゃがにすることに決めた。水を張った鍋を火にかけて、流しに投げるようにジャガイモを置きながら、リサーナは小さく溜め息を吐く。
距離を測りたかった。ナツがこの『恋人ごっこ』をどこまで本気でやっているのか、知りたかったのだ。しかし、

「可哀想なこと、しちゃった」

押しとどめられるくらいは予想していたが、まさか泣かれるとは思わなかった。胸の痛みに慌てて部屋を出てきたが、気付かれてはいないだろうか心配になる。
土を落としたジャガイモは、いつもよりも茶色に見えた。皮を剥き始めると、細かい作業に心が落ち着いてくる。
やっぱりナツは、好きな人がいるのに他の女に手を出すような奴じゃない。そこだけは安心できた。ずっと近くにいたはずのナツが、掴めなくなっていたから。
しかしもし拒絶されなかったら、自分はどうしていただろうか。

キスくらいは、きっとしていた。ナツになら――それ以上のことも許せていただろう。

リサーナは自分の心に溜め息を吐いた。
ナツがルーシィを好きなことには気付いている。初めは淡かったそれは、段々と形を成して今や完全に恋心と言えるまでに成長していて。
だから最後の思い出に、動物園に二人で行った。だからケジメを付けるために、告白した。なのに。

どうして付き合うことになったのか、わからない。

――ルーシィが怒ったから?
ルーシィがナツを恋愛感情で見ていないのは知っていたから、リサーナの為に悲しんでくれることは想像の範囲内だった。でも、頬を張るほど怒ったのは何故なのか。好きな奴がいる、って。ルーシィのことだろうに、どうして怒る?

「……なんでかな」

リサーナはジャガイモを4つに割った。思考を止めて、しらたきを沸いた湯に入れる。慣れた手付きで下準備を進めながら、リサーナは眉間にシワを寄せた。
とりあえずルーシィが怒った理由については置いておくとして。ナツはなぜ自分と付き合っているのか。
直情的だがそれ故に誠実なナツが、全く気持ちのない相手と興味本位で付き合うとは思えない。ならば自分は、それなりに好かれていると思っていいだろう。しかしそれはルーシィという本命がいない場合だ。

「なんでなんだろ…やっぱり何か…私の知らないことがあるんだ…」

ナツが夜に何かしていることに、関係するのだろうか。
それはきっと、ルーシィにも関係がある。夜の『散歩』なんて、信じられるはずがない。
もしかしたら、ナツにはルーシィを好きでいてはならない理由がある?
何にしても。

「好きなら真っ直ぐ伝えればいいのに」

くよくよして他の女と付き合うより、その方がずっとナツらしい。
しかしそれをさせないのもリサーナの存在に違いないわけで。

絡まっている。

リサーナは少しイライラと菜箸で肉を解した。鍋の中で赤味を失っていくそれを見て、溜め息を吐く。
こんな風に思っていても、結局自分からナツを手放すことは出来ない。それくらいには、ナツのことが好きだから。

リサーナはまた自分の心に呆れて、口を尖らせた。






覚悟を決めていたリサーナ、棚ボタ展開にも浮かれることはないものの、いざ手に入ると放せないのです。



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