後には引けない






くるくる、とピンク色のシャープペンシルを回す指先を視界に入れて、ナツは手元のノートに目を落とした。もちろん授業を聞いているわけではない。リサーナが作ってくれた『最低限でも点数を取る』為のノートだ。頭には全く入ってこないが、見てないよりマシだろう。

(ナツ)

ずっと黙ったままだったハッピーが足元でナツを見上げた。

(これで良いの?)
(…いいんだよ)
(ナツはルーシィのこと、好きなんでしょ)

さすがに気付かれていたか。
思えばハッピーは初めからルーシィのことを示唆していた。きっとナツよりもずっと先に、ナツの気持ちに気付いていたのだろう。
ずきりと痛む胸を持て余して、顎を軽く引いた。ピンク色が中指と薬指の間に移動したのが見える。

(リサーナだって可哀想だよ)

彼女が傷付いたような表情をしたのはあの時だけだった。瞬きをした一瞬後には、ナツに柔らかく微笑んでくれた。

『ありがとう、これからもよろしくね』

ずきずきと広がる痛みに息を取られながら、なんとか強く頷き返し――その後は、よく思い出せない。

(リサーナのこと、好きなんだよ)
(本当に?)
(ああ)
(本当にわかってるの?付き合うって、一緒に帰ったり手繋いだりするだけじゃないんだよ?)
(わかってる)

リサーナは可愛い。ちゃんと、そう思えた。だから、大丈夫だ。

(心配しなくてもグレイのことは予定通り変わんねぇよ。オレに任せとけって)
(そんなこと言ってないよ!)

ハッピーの声に怒気が篭った。ナツは目を閉じて少し笑う。

(悪ぃ)

何故か怒鳴られたのが心地良かった。





「いやぁ、噂になってるぞ」

朝学校に着くなり、クラスメイトのマックス(以前他校の生徒に絡まれていたのを助けて以来、割とよく話す)が、ナツの席に手をついて口角を上げた。
昨日帰るまでは、ナツの周りは静かなものだった。
付き合うと言っても、リサーナとは以前から行き帰りも一緒、共にいることが普通なのだから、見た目からは何の変化も見られないはずだった。わざわざ言いふらしたのは、ナツでもリサーナでもない。

「予想通りの展開とはいえ、リサーナのファンは多いからな。刺されないように気を付けろよ」
「あはは、そんなことないよー」

リサーナがぱたぱたと顔の前で手を振った。クラスメイトがこんなにも寄ってくるのは珍しい。ナツは机の周りを取り囲まれて息を吐いた。

「えー、秘密」
「教えてよー」

リサーナは追求をくすくすと笑いながらかわしている。頬杖を突きながらその様子を見て、ナツは目を細めた。

(幸せそうだな)
(…そうだね)
(やっぱりこれで良かったんだ)
(ナツ?)

左側には誰もいない。言いふらした張本人は、カバンだけ残してどこかへ消えていた。
ナツの視線に気付いてか、マックスが得意気に説明しだした。

「呼び出し中だよ。ルーシィ、お前と噂されてたからな。これで完全フリー決定ってことで、告白してくる連中増えると思うぞ」
「…へぇ。どこが良いんだか」
「そりゃお前にはリサーナが居るからな」

お惚気いただきましたー!と騒ぎ立てるマックスを足で小突き、ナツは目頭を揉んだ。
昨夜は待ちぼうけを食らってあまり眠れていない。来ないだろうとは思っていたが、なんとなく待ってしまった。何度も開きながら、結局鳴らすことの出来なかった携帯が、今日もポケットで重く感じる。
ふと、視界に見慣れた金髪が滑り込んできた。

「おはよう、リサーナ、ナツ。囲まれてるわねー」
「ルーシィ、おはよう」

いつも通りに挨拶したように見えて、ナツの方をほとんど見ていない。訝る者もいない程度の、ナツだけが感じる違和感だった。
すぐににこにことリサーナ側に向かった背中に、ナツは早くチャイムが鳴るように祈った。






試験一週間前ということをたにしようやく思い出しました。てか別に伏線でもないんだから、どうでも良いんですけど。
この喧嘩にすらなれないのが良い感じにどろどろしてますね。書いてるこっちが凹むわ!



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