雨が降ってきた。ナツはルーシィの家の前でどんよりと垂れ込めた雨雲を見上げる。
ギルドでジュビア達と話をした後、ナツはどうしてもルーシィに会いたくなって外に出た。きっと本気で探せば見つかるだろう。しかし。

デート。

ガジルはそう推測して、邪魔するな、と忠告してきた。
素直に従ってやる義理はないが、それでも――もしその推測が当たっていたなら、と考える。ルーシィが一緒に居たいと思う相手から引き剥がすのは間違っている。それがナツではない誰かだとしても。
ふるふる、と首を振って滴り始めた雨粒を払う。足が勝手に向いたルーシィの家も、今日に限って窓は施錠されており、侵入することが出来ない。鍵を借りにギルドに戻るのも誰かに会うのも嫌だった。扉の前で待つよりもルーシィの姿がすぐに確認できる外に居たかった。

早く帰って来い。

しな垂れた前髪が水滴を顔に運ぶ。まるで自分が泣いているように思えて、ナツは右手でそれを払った。
ナツにとってルーシィは大切な仲間である。リアクションの大きい、突っ込みの激しい面白い仲間である。一緒にいれば楽しいし、いないときは物足りない。
それでもこんなに会いたくなったことは初めてだった。
ナツはルーシィをギルドに連れてきた魔導士であり、それ故ルーシィから見て一番長い付き合いのはずだ。もちろん自分がルーシィを一番に理解する立場にいるはずだと思っていた。さっき、ジュビアと話をするまでは。

『確かにルーシィは怒ることも多いでしょうけど…照れてることも多いですよ』

頭を殴られたようなショックだった。ルーシィが赤くなるのは何回も見ているが、その理由まではあまり考えたことが無かった。ただ漠然と、怒ってるとしか思っていなかった。ジュビアは他の連中よりもずっとルーシィとの付き合いが短い。それなのに、負けた。自分がルーシィを理解していない事実を突きつけられて愕然とする。
呼吸が苦しい。ルーシィに限ってデートなんて、と思うが、自分はルーシィの何を知っているのか。ルーシィに会いさえすれば。ルーシィに会ってデートなんかじゃない、と言ってもらえれば。
ナツはそれだけを目的にここにいる。そうだ。デートだったのか?と聞けばあのルーシィのこと、そんなんじゃないわよ、と否定してくれるはず。

「デート、だっ…たの、か…」

練習がてら口にした言葉は酷く重々しくなった。疑問系ですらない。心臓の辺りがぐっと痛く、苦しくなった。ベストを握り締めて、ナツは唸る。

早く。ルーシィ。

雨と不安に溺れる前に助け出してくれ。




「…な、何してんの…?」

聞き覚えのあり過ぎる声が頭上から降ってきた。ナツは家の前でうずくまったまま、突っ伏していた頭をのろのろと上げる。
いつの間にか雨は止んでいた。こちらを覗き込むルーシィの肩越しに運河の向こうの街灯が揺らめく。

「ルーシィ」
「え、ちょっとびしょ濡れじゃない!あんた一体いつからここに居たのよ!?」

張り付いた前髪を見てルーシィが悲鳴に似た声を上げた。やかましい。ナツはその声を聞いてふ、と笑みを零す。痛みが少し和らいだように感じた。
ルーシィはナツの濡れた額と首筋に手を当てて眉根を寄せた。

「とにかく、上がんなさいよ」

鍵を取り出しながら階段を先導していくルーシィの後姿を見る。
彼女にしては長めのタイトスカートと、Tシャツにふんわりとしたカーディガンを羽織ったその姿はいつもギルドで見る露出の高い様子とは違っていた。しかし見慣れないネックレスやバングルなど、お洒落に気を遣っているのは一目瞭然で。
めかしこんで誰かに会いに行ったのだと思うと、また胸の辺りに痛みが走った。

「?どうしたの?」

階段の下で突っ立っているナツを見てルーシィが心配そうな声を上げた。ふわり、香る赤ワインの匂い。飲んで、帰ってきた。

「……」

ナツは無言で階段を上る。逃げ出したい気持ちになったが目的はまだ達成されていない。そうじゃなきゃ、今夜は眠れそうにない。






濡れ鼠ナツ。


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