「ちょっと動かないでよ、今タオル持って来る」
「必要ねぇよ」

玄関先でナツを押し止めたルーシィの背中に答え、全身にゆっくり炎を揺らめかせる。服の乾燥なんて簡単なものだ。

「便利ね」

何故か呆れたように言うルーシィをまじまじと見やる。酒の所為か頬は仄かにピンク色を帯びており、その格好は――やはりいつもよりも大人しそうな印象を受ける。

「何か、用だった?」

扉を閉めると、部屋の真ん中でルーシィが探るようにナツを見た。少し緊張しているのがわかる。きっと用件に気付いている。

「…どこ、行ってたんだ?」

用意していた言葉は言えそうに無かったので、ナツはもっと簡単なものを選んだ。得られる返答は一緒だと信じて。

苦しい。頼む。

ルーシィはナツの目を見て逡巡する――が、ふ、と緊張を緩めた。

「パパに会ってた」
「へ」
「あんな事件の黒幕だしさ、ギルドの皆には…和解しました、なんて言えなくて」

黙っててごめん、ルーシィはそう言ってナツに頭を下げる。長いネックレスが大きく揺れた。

「デートじゃなかったのか?」
「はぁ!?」

気が抜けて漏れた声がルーシィを弾いたように顔を上げさせた。

「そんなわけないでしょ!誰がそんなこと言ってたのよ!?」
「いや…ガジル、が…そうじゃねぇかって」
「なんでガジル!?」

ルーシィはこれ以上ないほど胡散臭げにナツを見た。エルザやグレイならまだしも、どうしてガジルと自分の話をしたのか、どういう言われ様をされたのか。目が嫌そうに細められたのを見て、ナツが半眼になる。

「なんつーか、成り行きだよ。信用ねぇなぁ」
「信用できないわよ!」

安堵した瞬間から、ナツの身体に血液が巡ってくるのがわかった。背筋を伸ばし直して、ナツはふと気になったことを聞く。

「それにしてもお前、父親に会いに行くのにそんなめかしこんだのか?」

言った瞬間、かぁ、とルーシィが赤くなった。

「べ、別にそういうわけじゃないけど!」

口調は怒気をはらんでいる。ナツにはルーシィの赤面は怒っている合図だ。しかし。

「照れてんの?」
「!」

ジュビアから聞いたばかりのルーシィの反応を突いてみると、更に頬が赤くなった。こっちが当たりのようで、ナツはジュビアに完敗したことを悟る。

「はは、赤くなってやんの」
「う、うっさい!」

負けたけれどそれでも一つルーシィのことを知ることができた。ナツは嬉しくて楽しくて、ルーシィを前にベッドに座る。また胸がぐっと痛くなった。

「?」

デートじゃなかったのに。ほっとしたのに。今楽しくて、幸せなのに。それなのに、その幸せがまた胸の違和感を呼ぶようで。
神妙な顔つきで、ルーシィが言葉を紡ぐ。

「ねぇ…どう思った?」
「何が?」
「あたしが、パパと会ってたこと」
「良かった」

ナツは思ったことをそのまま口にした。良かった。ルーシィが父親と和解できて。良かった。ルーシィがデートに行ったんじゃなくて。

「な」

慌てて、一文字付け加える。ニッと笑いかけてやれば、またルーシィは赤くなった。

「照れんなよ」
「て、照れてないわよ!着替えてくる!」

洗面所に向かうルーシィを見送って、ぐ、と苦しい胸を押さえる。ぐ、というよりは…きゅ…?慣れない痛みの表現を探っていると、ふと昼間の会話を思い出した。

『その人を思うだけで、心が…胸がきゅん、とするような…苦しいような、幸せな気持ちです』

きゅん。苦しい。幸せ。
そうか。じゃあこれが。

「じゅびびん」
「何言ってんの!?」

洗面所から出てきた恋の相手が悲鳴に近い声を上げた。






ナツ自覚話、ジュビビン編。
父親と疎遠になった経験のある人ならわかりますけど、ちょっとお洒落したくなっちゃうんですよ、こういうの。極力露出は控えるのは当たり前ですね。


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