ルーシィはナツとハッピーとで、空飛ぶ大蛇の卵を巣から取ってくる仕事を請けた。
依頼主はとある行商人。報酬は六万Jとそこそこ。卵を定期的に取りたい為に大蛇を殺してはいけない、という条件だが、大丈夫だ、と笑うナツを信用して。
巣は森の奥だということで、三人はてくてく獣道を歩いていた。
「お、あれ巣じゃねぇか?」
ナツが指したのは木の枝が重なった上、木々を集めた大きな鳥の巣のような物。
枝は重みで枝垂れていて、木に登らずとも這い上がることが出来るほど下にあった。
「なんか鳥の巣みたいね」
「羽がある蛇なんだろ?巣も鳥みたいなもんなんじゃね?」
駆け寄って覗いてみると、巣の真ん中に薄いオレンジ色の、一抱えほどもある卵が見えた。
「これかな?」
「たぶんそうだよ。奇妙な模様が入っているから見ればわかるって言ってたし」
卵の表面には波紋を模したような、円を基調とした模様が濃い紫色で転々と付いている。
巣に上がって持ってみるとつるんとした感触で、凹凸は無かった。
「…ナツ?どうかした?」
ナツはルーシィの持った卵を巣の外からぼんやりと――いや、どこか遠くを見つめるようだった。
「あ、いや…なんか懐かしいなって思ってよ。ハッピーの卵思い出しちまった」
苦笑するような表情。それはいつものナツには似つかわしくない切なさを含んでいて、ルーシィはなんだか胸騒ぎのようなものを感じた。
「ナ…「オイラの卵もこのくらいの大きさだったの?」
「おお、もうちょっと白くて、紺色の炎みたいな模様がついてた」
ハッピーに答えるナツはいつも通り。
(見間違い、かな)
「よっし、じゃあそれ持って依頼主んとこ帰ろうぜ!」
ナツが満足そうに腕を振り上げた。
「今回の仕事は楽だったわねー」
「な、拍子抜けだよな!」
「オイラ知ってるんだ。そういうこと言ってるとトラブルが発生するんだ」
卵を抱えたまま巣を降りて、ナツとハッピーの元に戻る。
と。
ばさばさばさっ!
大きな羽音が聞こえ、影がさした。
「お約束ってやつなんだ」
ハッピーがしたり顔で頷く。
「言ってる場合じゃな…っ!?」
影を振り仰いで絶句する。
太陽を背に急降下してくるシルエット。それはどう見ても蛇ではなく、鳥。
「伏せろ!」
ナツの声が飛ぶ。
「火竜の咆哮!」
炎がシルエットを包んだ――かに見えたが、鳥はその体躯からは想像できないほど俊敏に回避する。
ずむっ!
ルーシィの前に降り立ったのは、二階に届くくらいの大きな怪鳥だった。