「お前さ、なんとかなんねぇの?」
「何がだよ?」
グレイがジョッキの陰から、ルーシィの後姿を指差す。それはナツがさっきから視線を向けていた先でもあって。
グレイが何を言い出すのかが想像できて、ナツは少しだけ頬を染めた。
「好きなんだろ?」
息を飲む。こんなストレートに聞かれるとは思っていなかった。
熱くなる顔をむず痒い気持ちで俯けながら、
「そ、そんなんじゃねぇよ」
言い返すもグレイは聞かなかったように言葉を繋げた。
「気付いてもらえなくて苦しいって顔してんぞ」
完全に図星だった。
『一緒に居ると楽しい』が『好き』だと気付いたのは、それほど前ではない。自覚してからすぐにでも伝えたかったのだが、初めての感情への戸惑いと――ルーシィが余りにもそういう雰囲気を作らせてくれず。
結局、うだうだと見つめるだけになっている。
「なんかルーシィ、お前に懐いてる気がすんだよ」
不安に思っていたことを言葉にすると、グレイが呆れたような視線を向けてきた。
「あのなぁ…。あー…お前、仕事中とかルーシィほったらかしだろ。気にかけてやれよ」
「気にかける?」
「守るとか庇うとか」
「守るって…ルーシィ強ぇじゃんか」
「それでも経験足りねぇし、隙は多いだろ。後はそうだな…足場悪いとことか、手ぇ引いてやるとか」
「は?手って…繋げってのか?」
想像するだに恥ずかしい。いや、繋いだことがないわけじゃない。でもそれは、こんな気持ちに気付く前のことで。
赤くなったナツに気付いて、グレイが半眼になった。
「お前…年いくつよ?」
「し、知らねぇよ!」
言わんとするところがわかって、更に顔が赤くなる。
「こういうの、苦手だ」
口を尖らせると、頬杖を突いたグレイがちらり、とルーシィに視線を走らせた。
村を襲うモンスター討伐の仕事中。
だむ、と2メートルほどの段差から飛び降りて、ふとグレイの言葉を思い出した。
ナツは振り返ってその段差の上にルーシィが居ることを確認すると、両手を広げた。
さぁ来い。…て、あれ?これって、ルーシィがオレの腕の中に来るってことか?
自分の体勢がもたらす結果を思い描いて、ナツは急に焦る。頬に熱が集まって、でも広げた腕を戻すことなど出来なくて。
ごくり、と喉を鳴らした瞬間、ルーシィが地面を蹴った。
たんっ。
短いスカートを翻して、ルーシィが着地した。ナツの横に。
「…何してるの?」
腕を広げたままのナツを見て、きょとん、と首を傾げる。ルーシィに抱えられたハッピーが気の毒そうな視線を向けてきた。
「いあ…別に」
そのままの姿勢でルーシィに言葉を返すと、
がしゃん!
「ぐぇっ!?」
「ああ、すまない、ナツ」
段差からエルザが降ってきた。完全に油断していたナツは下敷きになって悲鳴を上げる。
「い、痛ぇ!エルザ、鎧の角刺さってる!」
最後に降りてきたグレイがナツを見ないように視線を逸らした。
「来たみたいよ」
ルーシィが少し離れた森の奥を見据えた。
どどど、と地響きのような音が聞こえてきている。
幸いここは木や岩などの邪魔なものもない。向かっていくより迎え討つことを選択して、段差の下で、4人と1匹は身構えた。