「火竜の翼撃!」
「換装!」
「アイスメイク、ハンマー!」
「開け、金牛宮の扉!」
敵はそれほど強くないが何せ数が多い。ナツはちまちまと闘うのが面倒になって、後ろを振り返った。
さらりと揺らめく金髪が、ぴしり、と鞭を鳴らしている。その背後に、3匹ほど近寄ってきているのが見えた。
「ルーシィ!」
ナツは勢い良く踏み込んでルーシィを背に庇うと、一気に向かってきた3匹を始末する。
「火竜の鉤爪!」
ちょっと気合を入れすぎたか。3匹程度にはもったいなさ過ぎるほどの火力を使って、くるり、とルーシィを振り返る。と、
「タウロス!」
「MOー!!」
ルーシィは全くこっちを見ていなかった。
おい。オレ今、結構格好良かったと思うんだけど。
脱力して思わず体が傾いたナツに気付いて、ルーシィが鞭をしならせた。
ばしん!
「危ないわよ!」
ナツに向かっていた1匹を悠々と叩いて、ルーシィはまたタウロスに視線を向ける。
「ルーシィさん!」
「うん、行くわよ、タウロス!」
ほー。仲良いですねー。
思わず半眼になって、ナツはエルザと背中合わせになっているグレイを目で刺す。
なんだよ、グレイの言うことなんか役に立たねぇな。
すぅ、と息を吸い込んで。
鬱憤を晴らすように火を吐いた。
「火竜の咆哮!」
「わぁ!?」
「お、おい、ナツ!」
狼形モンスターやら猪形モンスターやらに対して突っ込みながら、ナツは何も考えずに体を動かした。
暴れる。暴れる。暴れる。
「きゃあ!?」
「ルーシィ!」
火の付いたモンスターが体当たりでタウロスを星霊界に戻し、その勢いのままルーシィに向かったのを、グレイが氷で撃墜した。同時にハッピーがルーシィを段差上に避難させる。
ふと気付くと、辺りのモンスターにはほとんど火が付いていた。獣型の癖に耐性があるようで、こちらに向かってくる気迫が衰えた様子はない。
暑さの為か習性か、グレイはパンツ一枚だった。エルザは炎帝の鎧で、炎から身を守っている。
「くっそ…」
グレイが最後の一枚に手をかけたので視界から外し、段差上を見上げる。ルーシィと目が合った。
「…!」
こくり、とルーシィが頷いて、金色の鍵を掲げる。
ナツは近くのモンスターを蹴り飛ばすとばっ、とその場を離れて、グレイとエルザに近寄った。味方が固まるように。
「開け、白羊宮の扉!アリエス!」
ルーシィに応えてぼふん、と出てきた白いもこもこ女が、もこもこした綿を大量に出現させた。一瞬にして残ったモンスターが絡め取られていく。
「えいっ」
丸まった巨大な綿がモンスターを全て吸収したのを見て、ナツは息を吸い込んだ。
「火竜の咆哮!!」
最大火力をその綿に向ける。
吐き出した炎が綿に引火し――
どごぉおおおん!
爆発した。
煙が晴れると、目の前には氷の壁があった。恐る恐る振り向くと、満足したように腕を組むエルザと、安堵したように息を吐くグレイ。
あ。履いてる。
ほっとしてナツも息を吐くと、段差からルーシィとハッピーが飛び降りてきた。
「大丈夫!?」
ルーシィは真っ直ぐナツに向かって来る。それが嬉しくて、ナツは笑った。
「うん、やったな!ルーシィ!」
右手を上げると、すぐに手が合わせられる。
ぱちん!
「うん!」
わかっていたかのようなハイタッチ。向けられる笑顔は、明るくて幸せそうで。
この笑顔が見られるだけで今はいいや。
ナツはルーシィに歯を見せて笑った。
ぽっ、とルーシィの頬がピンク色に染まる。
少しだけ後退りしたルーシィに異変を覚えて、ナツは首を傾げた。
「ん?どした?」
「なんでもない…」
「どっか痛いのか?」
「違うわよ!」
モンスターの全滅を確認したエルザの横で、グレイとハッピーが溜め息を吐いた。