今そこにある危機






「ナツ…ルーシィ、さ……寝ちゃってない…?」
「あ?」

ルーシィはナツの胸に身体を預けて泣いていた。はずだった。
ハッピーの指摘に恐る恐る肩を掴むと、完全に力が入っていなく。

「え?嘘だろ?」

顔を覗き込むとすーすーと寝息が聞こえる。
なんでこの状況で眠れるんだ?

「…一応フォローすると、きっとずっと気を張ってたんじゃないかと思います、あい」
「そうかよ…」

なんだかどっと疲れて、ナツは肩を落とした。とりあえずルーシィを抱えたまま立ち上がり、変身を解いて背負うと、起こさないようにゆっくりと歩きだす。
ハッピーが横を歩きながら、ナツを見上げた。

「どうするの?」
「どうするもこうするも。送っていきゃ良いだろ」
「…マンションの鍵、ある?」

はた、と立ち止まった。ベンチにルーシィを下ろし、そのポケットを探る。
ベルトにはたくさんの鍵が入ったキーケースが付いていたが、その中にはそれらしい物は無かった。

「んー?ねぇぞ?」
「変身解かないと無いのかもしれないよ」
「……」

つまり。

「起こせってことか?」
「ううん…可哀想だし、ナツが今考えたことで良いんじゃないの?明日日曜だし」
「ちょ、おい、勝手に考え読むなよ!」
「じゃあそんな大声で考えないでよ」

頬が熱くなる。ナツは憮然として、もう一度ルーシィを背負った。
さっきまでは気にならなかった、短いスカートから伸びた素足や、背中に感じる柔らかな重みが、ナツの歩調を狂わせる。
早く帰りたい。深呼吸して、ナツはぎくしゃくと自分の家路を急いだ。




ぼふん。ぎしっ。

ルーシィを自分のベッドに横たえると、ナツはん、と伸びをした。
頬に涙の跡が残っているが、口元が微かに開かれていて寝顔はあどけない。
めくれたスカートから下着が見えそうで見えないのが気にかかり、布団を上にかけてやると、なんとなく、安心したように笑った気がした。
今夜自分はどこで寝ようか。

「あー…やっぱ居間のソファか…って、おい。ハッピー?」

布団がもこもこと小さく膨らんで、ルーシィの胸の高さで落ち着く。
それを半眼で見守って、もう一度今度はテレパシーで話しかけた。

(おい、何してんだよ)
(ナツも早く寝なよ)
(だからお前はなんでそこで寝てんだよ)
(何言ってんの。ナツもここで寝るんだよ)
(…あ?)

聞き間違いか。頭を振って、こめかみを揉む。深呼吸もおまけに付けて、ナツは聞き返した。

(なんだって?)
(ナツも、一緒に、寝るんだよ)
(待て。待て待て待て!)

一語一語区切って言われたそれに完全に焦って、ナツはベッドに手をついた。軋み音に構わず、布団の隆起に顔を近づける。意味は無いけれど。
ハッピーは面倒くさそうに返答した。

(ルーシィが弱っちゃうよ)
(へ?)
(変身したままだと、魔導士は魔力を消費していっちゃうんだ。初めに話したよね?その魔力を魔力のある人間から補充するって話)
(あー…?そんな話聞いたような聞いてないような)
(とにかく、変身したままだとルーシィは寝ている間に魔力を消費しちゃうんだよ。ナツが一緒に寝れば、ナツから魔力を補充できるんだ)
(…オレから…って…それは一緒に寝てればいいのか?)
(どっか触れていれば良いよ)

どっか?どっかって、おい。
頬だけじゃなく全身熱い。
ルーシィを見るとすやすやと眠っている。魔力が消費されていく。そう聞くと、顔色が悪いように見えてきた。
ぐるぐると考えて、ナツは覚悟を決めた。
マフラーを外してパジャマ兼部屋着に着替え、ぎくしゃくと洗面所まで降りて行くと、歯磨き粉をいつもより多く出して歯を磨く。
ガラガラとうがいをして鏡を見ると、これ以上無いくらい赤面した自分が映った。
しゃ、シャワーは良いよな、とりあえず。公園行く前に風呂入ったし。…って違うだろ!
沸いた自分の思考に全力でツッコミを入れつつ、ナツは鏡の前で蹲った。
はぁ、と息を吐き出すと立ち上がって階段に向かった。一段目に足をかけて、

「……」

くるりと廊下に戻る。
いつもの癖で点けた居間の電気を消して、ナツは足音を立てないように階段を上った。






『特別依頼。気になる彼に注意せよ!』のナツVer.を目指しましたが…いまいち!


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