「来ないの」
「何が?」

ルーシィの部屋のソファに沈んで袋菓子を食べ漁るナツに、真剣な目をしてルーシィが言った。ナツはその主語の抜けたセリフに、きょとん、とルーシィを見つめる。

「来ないの……アレが」

もう一度、ルーシィが口にした。
ナツは「アレ?」と呟きながら、その隠語が示すものを探る。

「……赤ちゃん、出来ちゃった、みたい」
「へ」

ルーシィがナツを見つめる。ナツはぽかん、と口を開けた。




夢見る朝






「うぉおおおお!…お………!?」

暗い部屋で、ナツは薄いブランケットを握っていた。
その端で腹を上に向けて転がっていたハッピーが、うーん、と寝返りをうつ。
なんのことはない。夢だった。

「……そりゃそうだ」

ナツは瞬きをしてから、握った拳を見つめた。ガッツポーズをとろうとして急に止めたような、中途半端に曲がった腕。声は寝起きだからか、少しだけ沈んでいる。
ルーシィは同じチームの仲間で、ナツとはそういう関係ではない。もちろん子供が出来るような行為をした覚えもない。
変な夢。ナツは首を回して、拳を緩めた。

『……赤ちゃん、出来ちゃった、みたい』

ルーシィの意を決したような、真剣な瞳と声が脳に焼き付いていた。

「……はー…」

ナツは溜息を一つ吐いた。
夜はまだ明けそうにない。もう一度横になって、とくとくと鳴る胸に右手を乗せる。

なんだか、妙に、悲しかった。




「うわぁ、ルーシィ似合う〜!」

ギルドでグレイと一緒にエルザに説教を食らっているときに、それは聞こえた。
気を取られたエルザに怒られないことを悟って視線をやると、そこには予想通りルーシィが居た。
予想外の、格好で。

「や…似合うって言われても…」

戸惑ったような、それでも照れたような表情で、細かい花柄のワンピースを着たルーシィが返す。その腹は、大きく膨れていた。
ナツは目を見開いて呆然とその様を見る。瞬きしても、その光景は変わらなかった。口は酸素を求めるように、知らず薄く開く。

「ルーシィ卵生むの?」
「あたし卵生じゃないわよ!」

ハッピーが上げた声に、ルーシィがツッコんで場が沸いた。しかしナツは動くことすら出来ずにその様子を見守る。
心臓が張り裂けそうだった。呼吸が困難になって酷く頭が痛い。
真っ青になったナツを見て、ガジルが面倒臭そうに口を開いた。

「急にあんなにでかくなるわけねぇだろ。妊婦用服のカタログモデルだってよ」
「ああ、そういえば先週そんなことを言っていたな」

エルザが答えて、ようやくナツの時間が動き出した。
確かに、何かのモデルになるとは聞いていた。興味が無かったので生返事を返したのだが、それがこんなに驚く羽目になるとは。






初めて恋人ナツルー書いたかと思ったら夢オチ。


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