知らなくて






「なぁにやってんのよ」
「くっそ、ルーシィの所為だ」

授業が終わって席に戻ってきたナツに、リサーナがくすくすと笑いを零す。
全く、どこをどう読んだらラブレターに見えるんだ。後で文句を言ってやらねば。
クラスを見渡すと、リサーナの肩越しに、輝く金髪が見えた。
ルーシィはクラスに馴染んでいる。
仲が良いのはリサーナだが、他の誰とも気さくに喋るし、よく笑う。
からかうと反応は良いし、ツッコミもテンポが良い。一緒に居て、楽しい。
ふと、ルーシィがクラスメイトのカナに綺麗な笑みを見せた。それは作っていない、素の表情で。
やはり悪い奴には思えなくて、ナツは心臓の辺りを押さえる。

「どうかしたの、ナツ?なんか…顔赤いよ?」
「へ?」

聞いたことも無い大きな音が、どくどくと体の内側を叩いていた。
リサーナは目を細めてナツを見下ろした。
それは無表情で、息をしていないかのようだった。




「ねぇ、ルーシィ!今日これから時間ある?帰り、パフェ食べに行かない?」
「わ、行く行く!」

リサーナの提案に、ルーシィが両手を嬉しそうに叩いた。にっこりと笑った表情に、誘ったリサーナも嬉しくなる。

「じゃあ、ナツ、私達遊んでくるから、今日は一人で帰ってね」
「あ?オレも一緒じゃ駄目なのか?」
「来ても良いけど…」
「あんた、浮くわよ」

ルーシィが言った的確な一言に、ナツは嫌そうな顔をした。

「わかった、行ってこい」
「なんか偉そうね」
「ごめんね、ナツ。今日夕飯の後、勉強しようね」

ルーシィの腕を取って、リサーナは手を振った。ナツは口を尖らせたものの、手を振り返してくれた。



「わあ!すっごい大きい!美味しそう!」

プリンパフェを目の前に、ルーシィが歓声を上げた。リサーナも注文したストロベリーパフェの大きさに満足して微笑む。
一匙掬いとって口に運べば、生クリームの甘さに甘酸っぱいストロベリーソースが絡んで、頬が落ちそうだ。

「リサーナ、はい」

目の前のスプーンには、プリンとバニラアイスが乗っかっている。リサーナは口を開けてそれを受け入れると、自分のパフェからもイチゴとストロベリーアイスを掬って、ルーシィの口に入れた。

「んー」

頬を押さえてルーシィが目を閉じる。可愛い。

「私、男だったら絶対ルーシィに惚れてたと思う」
「えー?あたしが男だったらリサーナが良いなー。可愛いし頭良いし家庭的だし!」

にこにこと笑うルーシィには何の裏も無い。リサーナは小さくありがと、と返して視線を伏せた。

「でもさ、好きな人にはそう思われてないみたいで」
「へ」

瞬間、ルーシィはきょろきょろと辺りを見回して、声を落とした。

「何?今日、そういう話?」
「そういう話」

ルーシィはにやり、と面白がるように口角を引き上げた。

「よっし、協力するよ!このルーシィちゃんに任せて!相手は?」
「…ナツ」

ルーシィは笑ったまま「やっぱり?」と口にした。リサーナは注意深く見ていたが、瞬きをしたくらいで、その表情に変化は見られなかった。
ルーシィはナツのこと、なんとも思ってないんだ。
安堵で肩が少し下がる。

「そうねぇ…幼馴染だって言ってたよね。距離が近過ぎるってやつかなぁ」
「うん。毎日一緒に登下校してるし、どっか行くのも大体一緒だし。付き合っているようなもんなんだけど」
「うんうん」
「いかんせん、そういう空気が無いって言うか。私のこと、何だと思ってんだろ」
「なんかガキっぽいもんね。…と、ごめん」
「ううん、いいの。そういうとこがかわいいと思ってるんだ。…ルーシィは年上派?」

ルーシィの瞳が初めて揺れた。

「んー…どちらかと言えばそうかも?」

何かを思い出すような表情に、リサーナは身を乗り出した。

「誰?」
「え?」
「今誰かを思い出したんでしょ?」
「え、あ…いや、違うよ。別に、恋人だとかじゃなくて」
「片思い?」
「うあ、ほ、本当に。そういうんじゃなくってね」

ルーシィの頬はみるみるうちに赤くなっていった。本当に可愛い。

「お、幼馴染、なんだけど」
「え、ルーシィも?」
「あたしはそういう感情じゃないの!どっちかって言うと、お兄ちゃん的な!」
「本当に?」

じっと見つめると、ルーシィは観念したように眉を下げた。

「む、昔は…好きだった、のかも」
「初恋ね?」
「そうとも言う…」

リサーナはルーシィの頭をよしよし、と撫でた。

「今は本当に、そういうんじゃないからね?」

誰に言い訳してるんだか。上目遣いのルーシィに、リサーナは苦笑で返した。






リサーナ、ルーシィの協力を取り付けました。


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