知りたくて






なんなのよ。なんだっていうのよ。

ルーシィは右手の包帯を巻きなおしながら、イライラと唇を噛んだ。片手ではもどかしい。
やっとのことで覆い隠し、ベッドにダイブする。ぎしり、とスプリングが悲鳴を上げ、ルーシィの体を押し返した。
天井を見上げても、殺風景な部屋に変わりは無い。
ふと、鞭を置いてきてしまったことに気付き、舌打ちした。
明るい内にあれを取りに行くのは躊躇われる。そんなものを持って歩いているところを誰かに見られたりしたら致命的だ。しかし夜には――アイツがいる。
お気に入りではあったが仕方ない、諦めよう。
目を閉じて、息を吸い込む。
なんでアイツ、あんなこと。
昨夜は妖精の尻尾に誘って。そして今夜はルーシィの怪我を気遣って帰れ、だなんて。
自分を殺そうとしている相手に対する言動ではない。それとも、こっちが本気でないとでも思っているのか?

「あたしは本気よ」

誰もいない虚空を睨みつける。誰にでもない、自分自身へ、決意を告げる。

「本気で、ナツを殺すわ」

しかし、言葉とは裏腹に。瞼を下ろすと、右手に、腕に、背中に、ナツの高めの体温が戻ってくる。
あの温度を、消すというのか。
急に寒くなったように、ルーシィは毛布を手繰り寄せた。
そういえば、ナツはルーシィに対して魔法を使っていない。見くびられている?それとも――まさか、まだ妖精の尻尾に勧誘するつもり?
ルーシィは頭を振って考えを払った。
学校で子供のような笑顔を見せる、ナツ。その瞳は、なにも考えていないように、澄んでいる。

「殺さなきゃ」

ルーシィは震える手を叱咤した。




『調査してみる』

ハッピーがそう言ってどこかに消えてから3日。
ナツは夜の幽兵討伐を続けつつ、昼はルーシィを観察していた。
昨夜もルーシィは現れなかった。右手の包帯はまだ取れない。痛みは無いのよ、と笑っていたが、リサーナの手前そう言っているだけかもしれない。わからない。
そう、ルーシィがわからない。
大体、なんでリサーナを庇った?
ハッピーに聞く限り、幽鬼の支配者の魔導士にとっては、人間は食糧に近い。人間界で抗争をするに当たって、人間は、魔力を抽出する為だけの生き物だ。
魔力が無い人間など、どうなってもいいはずではないのか。
本当に、幽鬼の支配者なのか?それとも妖精の尻尾なのか?
あの紋章は妖精の尻尾だった。じゃあなぜ、ルーシィはナツを攻撃する?

(早く帰ってこいよ)

居ないハッピーに向けて、念を送る。
早く、答えが知りたかった。


大人しく席に座るナツを教師達は一様に気味悪がったが、机に突っ伏すのを見て諦めたような表情を作った。特に注意するでもなく、授業は始められる。
ナツは、机に伏せて寝た振りをしながらルーシィを盗み見た。
板書をノートに書き写して、シャープペンをくるり、と回し、教科書をめくる。頬杖を突いた姿勢で、ふと窓の外に視線を逃がした。
開いた窓から風が吹きぬけ、カーテンが大きく膨らむ。
それが天使の羽のように見え、ナツは慌てて腕の中に顔を戻した。
オレはアホか。
顔に熱が集まる。疲れているのだろう。少し睡眠を取らなければ。
目を閉じて呼吸を整えると、ほどなく睡魔がやってきた。

ぽこん。

頭に何かが当たる。顔を上げると、腕の横に折りたたまれた紙が落ちていた。

『折角授業出てるんだからちゃんと先生の話聞きなさい』

リサーナの字だった。右を見ると、悪戯っぽく笑っている。
ナツはその字の下に『いんだよ、オレは』と書き殴って投げ渡す。
リサーナはそれを読んで片眉を上げた。再び紙が返ってくる。

『良くない!再来週テストだよ!』

忘れてた、というより念頭になかった。ナツは耳の後ろを掻きながら、思案する。書く言葉は決まっていた。

『よろしく、リサーナ先生』

戻ってきた紙には『仕方ないからよろしくしてあげる』とハートマークが付いてきた。
ナツはにやりと笑って紙を折りたたむ。リサーナの教え方はすこぶる上手い。学校の教師共に教えてやった方がいいんじゃないか、とナツは半ば本気で思っている。
と、手が滑って紙が机の下に落ちた。
拾おうとするが、それはルーシィの足元に落ちていて。
気付いたルーシィがそれを拾い上げてかさり、と開いた。
視線を字に走らせるやいなや、ルーシィは頬を赤くして、ナツとリサーナを交互に見る。
その様子をきょとん、と首を傾げて見守ると、ルーシィは紙に何か書きつけた。ナツに投げて寄越す。

『ラブレターはもっと密かにやり取りしなさいよ!』
「ちっげぇよ!!」
「はい、ナツ。廊下」

思わず立ち上がって叫ぶと、壇上の教師から容赦のない一声がかかった。






ルーシィを眺めるアホナツ。うわ、恥ずかし!


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