「わぁっ、ナツ、フリーマーケットやってるよ!」
帰り道の公園に大勢の人が行き交っているのを見て、ハッピーが声を上げた。
「ちょっと寄って行こうよ、ね?」
わくわくしたようなリサーナの表情に、仕方ねぇなぁ、と付いて行く。リサーナは嬉しそうにナツを振り返りながら笑った。
リサーナはナツの鬱屈した気分に蓋をしてくれる。なんでもかんでも顔に出るバカ正直なナツが、ギルドで表面だけでも楽しそうに振舞えるのは、彼女のおかげだった。もっとも、蓋をするだけで、それはそこにあるままだったが。
背中を追って人ごみを割り進むと、女性が好みそうな雑貨を並べた店が目に入った。
「これ可愛い!」
リサーナはしゃがみこんで店の商品に目を走らせると、赤い石の付いたペンダントを手に取って声を上げた。ナツが隣でふうん、と興味の薄い声を出しながら青いペンダントを摘まんで顔の前に掲げて、また同じ場所に戻す。
「……?」
その様子をなんとなく見て、リサーナは気付いた。ナツは先ほどから青い石のブレスレットやら青色の手鏡など、青い物ばかり手に取っている。
ふと、ナツからもらったタオルハンカチを思い出した。ミラが、リサーナの瞳の色と同じだと言ってくれた、あのハンカチ。
リサーナはナツの隣でぽ、と頬を染めた。…私の瞳の色だから?
「ねぇ、ナツは昔から赤が好きだったよね?」
「ん?おう!やっぱ炎の色だからな!」
無邪気に答えるその表情に、やっぱりナツが好きだなと感じる。子供みたいで可愛い。
「2番目に好きな色は?」
「2番目?」
きょとん、としたナツを、リサーナは期待を込めて見つめた。
何かを考えるように商品に視線を走らせて、ナツはぽつり、と口にする。
「き…青、かな」
頬がほんのりと赤味を帯びて、視線を地面に落とした。
リサーナはその反応が嬉しくなって、くすくすと笑いながら肩でナツを突いた。
「なに赤くなってんのよ。かわいいわね」
「なっ、お、お前な…っ!」
慌てるナツの影で、ハッピーがそっと視線を外したことには気付かなかった。
ナツは尖らせた口をそのままに、さっき手に取ったばかりの青い石のペンダントをじっと見つめた。
好きな色、と聞かれてなぜ思い出したのだろう。
脳内に鮮明に映し出されたのは、金髪を青いリボンで結んだ後ろ姿。
前は簡単に思い出せたはずの笑顔が描けないことに、ナツの胸はきりりと音を立てた。
「ミラ姉、ナツがね、」
楽しそうに嬉しそうに報告してくるリサーナに、ミラは笑顔で相槌を打った。
ナツに、ルーシィには青いリボンがよく似合っているわね、と吹き込んだのは随分前のこと。そうか?などと興味なさげにしていたが、きちんと胸に留めておいてくれているらしい。
それがこうしてリサーナを喜ばせる結果となっていることに、ミラは蒔いた種が大きく成長したような成就感を感じていた。
しかし。
「でも時々ね、ナツ、ぼんやりすることがあるんだ。ここじゃない何処かを見ているような。昔はあんなことなかったのに…。ミラ姉、心当たり、ある?」
「ナツが?そうねぇ、お腹でも空いたんじゃない?」
言いながらミラは、心配そうに眉を寄せるリサーナの頭を撫でた。
心中は穏やかではない。
ナツがぼんやりだなんて。自分が思っている以上に、ナツはルーシィに本気なのだろうか。
「あんまり気にしなくても大丈夫よ、ナツだもの。でもアプローチし過ぎちゃだめよ。ナツみたいなタイプは追われると逃げちゃうわよ」
「えー?そうかなぁ」
にこにこと助言を聞くリサーナに、ミラは温かい気持ちになる。この存在を、一度失ったはずのこの笑顔を守りたい。強くそう願う。
その為には今はまだ急ぎすぎてはならない。特に決断を迫るような――告白などはすべきではない。今は、まだ。
リサーナの肩越しに、グレイと話すルーシィを視界に捉えた。ナツは…二人から一番遠いテーブルで、エルザが振り下ろしたフォークを青褪めて避けている。
グレイもナツもこのところ喧嘩をしていない。まるで、お互いに関わらないようにしているみたいだった。
ミラはちくりと胸に何かが刺さるのを感じる。
これが罪悪感であることは、疑いようもなかった。