girl's magic






ハッピーが追いついたとき、ルーシィは噴水に駆け寄るところだった。
この時間では噴き上がるわけもなく、外灯に照らされたそれはただの池のようだったが。

(ナツ、その噴水がゲートだよ。ルーシィは応援を呼ぶ気かもしれない)

ハッピーのテレパシーに、ナツがルーシィとの距離を詰めるのを止め、身構えた。
くるり、とナツを振り返って、ルーシィの口元がにやりと笑う。

「開け!宝瓶宮の扉!!」

持っていた何かを水面に突き刺したかと思うと、

ざっばぁああ!

噴水から何かが水柱と共に現れた。

「な…!?」

瓶を持った、髪の長い人魚だった。

(星霊魔法だ!)
(なんだそれ?)
(契約した星霊を呼び出して戦うんだよ!一体一体が強力な魔法を持ってる!)
「やっちゃって、アクエリアス!」

ルーシィがナツを指して人魚に指示を飛ばす。
相手は水。ナツはぞくりと背筋を震わせた。
人魚が瓶を傾ける。避けるか、果たして避けられる攻撃範囲なのか。

「うぉらぁあああ!!」
「…え?」
「ちょっとぉおおおお!?」

人魚が瓶から操った大量の水は、ナツではなく一直線にルーシィに向かって行った。ルーシィが流されて唖然とした一瞬に、ナツもハッピーも大波に巻き込まれる。

「!?…っ…!」
(ナツー!)

ハッピーのテレパシーに答える余力もなく、ナツの意識は波に飲まれた。




「げほっ、えほげほっ!」
「ナツ、大丈夫?」
「…っほ…お、おう…」

最初に見えたのは覗き込むなんだかみすぼらしい猫だった。次いで、星空。外灯。木。
がばっ、とナツは起き上がった。

「ルーシィは!?」
「わかんない。オイラが起きたときにはもう居なかったよ」

水滴の滴る前髪をかき上げて、ナツは辺りを見回す。幽兵と戦った場所よりも、更に噴水から離れた位置だった。こんなところまで流されたのか。

「なんでルーシィまで攻撃されたのかな」
「…さぁな。仲でも悪ぃんじゃねぇ?」

ナツは噴水へ続く道を眺めながら、適当に返事を返す。

「ナツ?」

大人しくなったナツに、ハッピーが心配そうな声をかけた。

「敵、か…。ちぇ、面白い奴が来たと思ったのに」

ナツの声は残念がっているようにも、怒っているようにも、ふてくされているようにも聞こえた。
ハッピーは濡れた体を震わせて水滴を払う。

「ナツ、乾かしてよ」
「おー」

全身に炎を揺らめかせて自分の服を乾かしてから、手に熱だけを集めてハッピーを撫でた。濡れてやせ細った体が、みるみるうちにふかふかの毛皮を纏う。

「ありがと!流石、ナツです!あい!」
「おう!だろ!」

無邪気に笑うナツを見上げて、ハッピーはルーシィが本当に妖精の尻尾に入ってくれれば良いのに、と思っていた。




ルーシィはびしょ濡れになったまま茂みに入り、処女宮のバルゴを呼び出して着替えた。
契約星霊であるはずのアクエリアスには何度もこうして流されている。悲しいかな、波に飲まれることに耐性が付いていた。

「今日は渦じゃなかったからまだマシね」

溜め息を吐いて茂みを出ると、アスファルトの上に桜色の髪の男と茶虎の猫が転がっているのが目に入った。

「……」

息はある。放っておいて問題ないだろう。
ルーシィは公園の出口に向かって踏み出しながら、さっきの戦闘を思い出していた。

『お前も妖精の尻尾に入りゃいいじゃねぇか』

ナツの目は当然、とでも言うように、自分の言ったことを少しも疑っていなかった。その瞳が、ルーシィには痛い。
ルーシィには出来ない。幽鬼の支配者でも、他の魔導士なら妖精の尻尾に加入することは可能かもしれない。それなりの苦労と努力を惜しまなければ。しかし、ルーシィには幽鬼の支配者にいなければならない理由があった。

「待っててね…」

ルーシィは空を見上げて、星に誓う。必ず、ナツを殺すことを。






アクエリアスお姉様ばんざい。
殺すとか言ってる癖に、息があるから大丈夫とか矛盾するルーシィ。



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