「ねえ、オイラ――」
提案は最後まで口に出来なかった。
「ぐぬぅううう!」
やや青い顔をしていたナツが唸り出したかと思えば、ルーシィの背中にぼっ、と火が点いた。彼の右拳があったところだ。
「熱っ!?」
「あ」
珍しく背中が覆われていた服を着ていたせいで、その部分が灰と化す。ルーシィは手が使えない様子で身体を揺すった。
「きゃああ!消して!」
これはグレイも氷で応戦パターンかと思ったが、彼はぎょっとした空気を――ハッピーからは顔が確認できなかった――出しただけで、魔法の発動はしなかった。代わりに怒声を飛ばす。
「服が燃えるだろうが!」
「それ服着てる人のセリフ!」
ハッピーは目を疑った。確かにさっきまではきちんと服を着ていたはずなのだ。どうやったらこの状態で脱ぐことが出来る?
冷や汗がこめかみを伝う。
「まさか、あの伝説の大技、クロスアウツなのか……!?」
「そこの猫!バカなこと言ってないでなんとかして!」
「もう消えてるよ」
そつなく炎帝の鎧に換装したエルザの魔力で、風が起きていた。じたばたしたつもりだろうルーシィがほっと力を抜く。
「はぁ……ナツは魔法禁止だからね!」
「横暴だ!」
「妥当よ!」
ルーシィとナツが言い合っているうちに、エルザがひょい、と起き上がった。
「え?」
「んなっ!?なんでお前動けんだよ!?」
「気合に決まっているだろう」
「マジか!?」
ナツとグレイがふんふん言うが、何も起こらない。挟まれたルーシィが情けない声を出した。
「ちょ、ちょっと、その鼻息荒いのやめて。なんかヤダ」
「人を変態みたいに言うんじゃねえ!」
「そうだぞ、グレイみたいに言うんじゃねえ!」
「オレを変態の代名詞にすんな!ちょっと脱ぎ癖があるだけだ!」
「そんな癖ある時点でちょっととか言わねえんだよ、変態野郎!」
エルザはまるで天から君臨するかのように立つと、逃げ出していた男達へと武器を構えた。軽く、それでいて強く、地面を蹴る。
「待て!」
「くそぉ、なんでエルザだけ!」
「たぶん……換装のおかげじゃないかしら?くっ付いてたの、鎧だけだったとか」
「それならグレイはどうなんだよ。脱皮したんだから抜けられるだろ」
「脱皮言うな。そんなんすぐに動けるか。エルザが異常なんだよ」
「てかナツだって、手、離せたんじゃないの?」
「あ?」
ナツの手はルーシィの背中にぺたりと張り付いている。元は拳だったはずなので、一度離れていたのは明らかだった。持ち上げようとしたか、彼の腕に力が入るのが見て取れる。
「あー……そういえばそんな気もする。またくっ付いてんな、これ」
「はっ、迂闊だな、てめえ」
「アンタもよ、グレイ」
エルザが男達に追いつく。彼女と、塊の崩壊を諦めたかのような三人を見比べて、ハッピーは仕事の完了を悟った。