グダグダも良いところだ。
ハッピーは嘆息した。人間がジャンプしても手の届かないギリギリの位置から、彼らを見下ろす。
「髪の毛引っ張らないでよ!」
「うっせえな!耳元で叫ぶなよ!」
「つか人を巻き込むんじゃねえよ、クソ炎!」
「お前たち、落ち着かんか!」
ナツ、ルーシィ、グレイにエルザ――いつもどおりのチームメンバーが、塊となっている。
それはもう何の比喩でもなく塊だった。折り重なり積み上げられ、絡み合って球状と言っても良いくらいになっている。
ハッピーはもう一度大きく溜め息を吐き出した。
依頼人の話を思い出す。忠告は受けていたのだ、ターゲットの一人が接着の魔法を扱うと。
『とにかくくっ付くから、仲間同士の距離は離して対応した方が良い』
魔法にかかったのは先陣を切っていたナツだけだったのだが、ルーシィに触れ、グレイに突っ込み、エルザがそれを引き剥がそうとして――あれよあれよと言う間にこうなった。お約束過ぎて感心する。
「ぐっ、離れねえ……!」
ナツがグレイの足を押しやる。当たり前のようにわざわざルーシィの身体を避けてグレイを離そうとしているあたり、ツッコミたくてヒゲがムズムズする。
「ちょっとナツ、下手に動かないでよ!」
「うぉ、またくっ付いた!くそ、グレイなんか触らなきゃ良かった」
「てめえなあ……!」
ハッピーはいつだったかルーシィが作ってくれたおにぎりを思い出していた。あれは見た目も美しく味も――いや、記憶にない。ナツが真っ先に食い散らかして、ハッピーの口には入らなかった。
「どうしよう、オイラ近付けないし」
引き剥がそうにも、触れてしまえばハッピー自身もくっ付いてしまうだろう。ナツ達から幾ばくも離れていないところで様子を窺っている二人組をどうにかした方が良いのはわかっているが、いかんせんその手立てもない。
「よし、やったぞ、逃げよう!」
「と、とどめ刺さなきゃ追ってくるんじゃ」
「で、でもよ」
まだ年若い男達だった。依頼人はこの二人の元雇用主で、彼らが横領しただの企業秘密を洩らしただのと息巻いていた。
ハッピー達の役割は捕まえて連れて帰ること。このメンバーだ、見付けてしまえば依頼達成したようなもののはずだった。それがこのザマでは妖精の尻尾最強チームの名が廃る。
『楽勝よね!』
『その時はルーシィにあんなことが起こるなんて誰も予測していなかったんだ――』
『ヘンなナレーションすんな、猫!』
出発前の冗談を半分後悔しながら、ハッピーは身構えた。誰も動けないのだから、追撃は自分が何とかしなければならない。
しかし男達は怯えたような視線を互いにかわしているだけで、こちらには一瞥もくれない。ただ、ジリジリと後退る。
「待ちやがれ!」
「いっ、痛い痛い!」
「急に動くんじゃねえよ!」
「くっ、何も見えない!ナツ、反転しろ!」
こんがらがった彼らはゴトゴトと二回転して止まった。それぞれ――主にナツとグレイが――違う方向に行こうとしているのか、ぐらぐら揺れる。
「うぷ」
「ちょっ、ちょっとやめてよ!?みんな止まって止まって!」
この魔法も永遠に続くわけではないだろう。ここは自分が追跡しておいて、解放されたら来てもらうのが得策だろうか。