「ん?」
バックスクリーンにカラフルな文字が踊る。注意を引くそれを、ルーシィは初め何も考えずに読んだ。
目を疑う。
「え?」
開いた口の閉め方を思い出せないうちに、画面は妙齢の男女に切り替わった。観客席のどこかだろう、両隣や前後にも人が見切れている。
二人は揃ってどこか一点を――恐らくこのスクリーンだろうが――見つめると、照れたように笑った。男性が女性の肩に手を置き、そして。
キスを、した。
「な……」
歓声と拍手が起こる。ルーシィは目のやり場を失い、顔を俯けた。脳が熱い。愕然とする。
ど、どういうこと!?
どういうもこういうも、今見たものが全てであり真実だ――頭の辛うじて冷静な一部分が嘲るも、ルーシィは目をキツく閉じて首を振った。こんなことが起きて良いわけはない。
こんな。
カメラに映されたら強制キス、などと。
「こんなの、聞いてないわよ……!」
休憩時間のイベントなのだろう、それは理解するが、前もって予備知識が欲しかった。少なくとも直視するような真似は避けられたはずなのに。
それにもし、映されでもしたら。
「苦じ……首、締めないでよ、ルーシィ……」
「わ、ご、ごめん」
無意識にハッピーを絞め上げた手を慌てて開く。
グレイが咳払いした。
「落ち着けよ」
「うう……グレイは知ってた?」
「まあ、聞いたことくらいは」
「ねえ、逃げた方が良くない?」
「こんだけ人数居んだから大丈夫だろ。明らかにカップルみたいなのじゃねえと狙われねえだろうし」
「そ、そそ、そうよね」
「どした?」
ナツは全く見ていなかったらしい。彼にとっては不自然な動きをするルーシィだけが疑問であり不可思議に映ったのだろう。無遠慮にじろじろと視線を寄越した挙句、匂いを嗅ぐような仕草まで見せる。
「ちょ、何!」
「猫みてえな匂いするな」
「ハッピー居るからね!?」
「えええ!?オイラ猫みたいな匂いするの!?」
「猫だし!」
ナツの平常運転に、ルーシィはほっと息を吐いた。彼の言動は困ったものが多いがブレない。いつでもどこでも、ギルドに変えてくれる。
ナツが居るから、大丈夫。
無根拠に安心する。そんな自分がおかしくて、ルーシィはくすりと笑った。ハッピーを抱き寄せて、口元を隠す。
エルザが右手を上げた。
「ん?お前たち、映ってるぞ」
「えっ!?」
ナツとキスしろと言われても困る。もちろん嫌いではないが、そんな目で見たことはない。彼に甘い雰囲気など全く似合わない――
「っ……!?」
映っていたのは、自分と――グレイだった。