「なっ……」
「おいおい……」

画面の自分とは目が合わない。カメラはその周辺にはないようだった。

「な、なんで?どうしたら」
「いや、どうも……」

グレイも困惑した表情で画面を見ていた。隣に居る彼は絶対に直接見ないようにして、ルーシィは首を引いた。目を合わせることさえ困る。

「え、えと、あの……違うから!」

どこに居るのかもわからないカメラマンに伝わることを祈って、ぶんぶんと首を振る。
ブーイングが沸き起こった。

「ひゃっ」
「あー……しゃあねえ、ルーシィ、ちょっと目ぇ瞑れ」
「むっ、無理無理無理!」

とんでもない行動に出ようとするグレイに目を剥く。脳に血が上って爆発するのではないかと、ルーシィは本気で心配した。クラクラして目の前が白っぽくなる。

「いや、あのな、別に口じゃなくても……」
「なんでお前らだけ!オレも映る!」
「きゃっ!?」

がくりと身体が傾く。重い。膝で胸が潰されて苦しい。
のしかかってきたナツはルーシィの上で嬉しそうな声を出した。

「お、そうそう、こっちこっち!」
「え」

跳ね除けてスクリーンを見ると、ナツが大きく手を振っていた。
もちろん、ルーシィもそこに居る。

「なっ、なにしてんの、アンタ!?」
「へ?」

前に座っていた男性が、振り返って帽子を上げた。

「兄ちゃん、これキスカムだよ」
「何だそれ?」
「キスすんのさあ。チュッチュッチューッて」
「――……」

酔っているのか大声でそう言った男性に、ナツは少し間を空けて頷いた。画面を見上げてから、こっちを向く。

「え、な、ナツ?」
「聞いてなかったのか?」

すい、と伸びてきた手が肩に触れる。
逃げようと思えば逃げられる。だがその無いに等しい拘束力に、ルーシィは全身の自由を奪われた。
呼吸もできない。ナツの目に、瞬きさえ封じられる。

「あ……」

辛うじて唇は動いたが、脳が停止しているため言葉らしい言葉は出てこなかった。そもそも言いたいことがあるのかどうかもわからない。考えられない。

ナツが、近付く。

――良いの?

このままじっとしていれば、数秒もかからずに触れるだろう。

触れる。

どこが。
唇が。

誰の。
ナツの。

――ナツだ。

ふっ、と肩から力が抜けた。安心したのだと、どこか遠くで気付く。

ナツがしたいなら。

良い……かも……。

緩慢に麻痺していく思考が、瞼を下ろす――

「だから、口じゃなくても良いんじゃねえか?」
「っ!」

グレイの声に反応したのは、一体誰だったのだろう。
自分以外の力を感じるほど、無意識に。
ルーシィは、ナツに頭突きをかました。

「ぐっ!?」

シートから転げ落ちたナツががすんと頭を打つ。その音に被せるように、会場が沸いた。

「え?」
「わあ、あれ見て!」

ハッピーに促されて視線を向けると、画面にWINNERの文字が踊っていた。はしゃぐ猫を膝に乗せた自分が、ぽかんと口を開けている。
笑い声に包まれたスタジアムで、グレイが感心したように呟いた。

「すげえな、対応したぞ」
「くっそぉ、もっかい映せ!リベンジだ、次は絶対オレが勝つ!」
「そういうのじゃないっ、てば!」

二回目の頭突きはナツを試合終了まで起こさなかった。






せっかくその気だったのに。
お付き合いありがとうございます!



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