君がいるから





マグノリアから少しばかり離れた街のスタジアムに、ルーシィは居た。ナツとハッピー、エルザ、グレイの、いつもどおりのメンバーと共に、生まれて初めてサッカーを観戦している。
思ったよりも早く片付いた仕事の、副報酬がこの試合の観戦チケットだった。相対しているチームは聞いたことがある程度で、サッカーの詳しいルールもわからない。だが観客の入りは上々で、雰囲気に飲まれたルーシィも盛り上がっていた。

「取った!」

興奮したナツが立ち上がりかける。その上着の裾を左手で引っ張りながら、ルーシィも拳を握った。

「今度こそ!」
「いけんだろ!」

グレイが身を乗り出す。
どっちを応援しようと決めていたわけではなかったが、赤いユニフォームのチームが何度もゴール間際でボールを奪われ、その都度こっちも落胆させられた。なんとなく贔屓したくなる。
しかしグレイはナツが赤チームを応援しているのを見て、わざわざ『じゃあオレは向こうのチーム応援する』と子供のように対抗心を燃やしていたはずだ。
シュートが放たれる前に、ボールがラインの外に出される。肩の力が抜けて、ルーシィは右隣の黒髪を見上げた。

「グレイもこっち応援する気になったの?」
「いや、チームとしては応援してねえよ。ただほら、あいつ……あの5番居るだろ?さっきから走り方面白ぇのに速いんだよ。あいつには頑張ってもらいてえ」

チームではなくて個人を応援するつもりらしい。それはそれで感情移入できそうだと、ルーシィはくすりと笑った。お気に入り選手を見付ける観戦方法はなんだか可愛く思える。

「あたしは11番かな。よく目に付くし」
「あれはナツに背格好似てるから却下」
「えっ、似てな……あれ、言われてみれば似てるかも」

ちょうどバックスクリーンに映し出された11番は比較的小柄ではあるが、露出した腕や脚の筋肉はよく締まっている。動きが目立って大きいのもナツを彷彿とさせた。
グレイはからかうように口角を上げて見せた。だがにやにやと笑うだけで何も言わない。

「……何よ」
「なんでもねえよ?いやー、よりによって11番とはな」

はっきりと聞こえる音量でぼそぼそと呟く。首と耳が一気に熱くなった。

「なっ、べっ、別にそういうわけじゃないし!」
「そういう?どういう?」
「ぐ……グレイってたまに意地悪よね」
「ははっ、悪ぃ悪ぃ」

しかもただ意地悪なだけではない。甘やかされているような感覚があるのだ。それがまた、ルーシィの頬を染めていく。

「もぉ」

ホイッスルが鳴り響いた。

「何?」
「ハーフタイムだ。休憩だよ」

ナツの頭に乗っていたハッピーが、ぴょこんとルーシィの膝に飛び降りてきた。

「楽しいねー……あれ、点入ってないんだっけ」
「そういえばそうね」

0対0。得点しなくても見てる分には面白い。
だが、エルザはそうではなかったらしい。グレイの隣で、ギリギリと歯を鳴らしながら唸る。

「シュートが何故入らない?練習不足か?両チームとも気合が足りん!」
「そういう問題か?」
「ほら、キーパーも居るんだし、なかなか、ねえ?」
「もっと相手を吹き飛ばすくらいの勢いでシュートすれば良いだろう」
「それが出来る人はもう人間じゃないと思うわ……」

とは言え、エルザならやってくれそうな気がする。
想像上の彼女がボールどころか相手チーム全員を文字通り蹴散らしていく。なんの不自然さもないその光景に冷や汗を流すと、ナツがひょい、と首を伸ばした。

「バカだな、エルザ。そういうのはもっと後半になってからだろ」
「そうか」
「えっと……」
「もうそういうことにしとけ」

グレイが面倒そうに言ったとき、スピーカーから音楽が聞こえてきた。






乱闘希望。


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