「そういえば、捨てられてたんだっけ……」
残った魔力でここまで機能したのは奇跡だったのだろう。
命が燃え尽きるような光景に、じわりと目頭が熱くなった。
「ありがとう、嬉しかった。……さようなら」
「え?」
一瞬家の声かと思ったが、そうではなかった。
少女を振り返る。彼女は笑っていた。確かに。
「待っ……」
ふつり、とスイッチが切れたかのように暗転した。急に身体が締め付けられるような苦しさが襲ってきて、息が詰まる。
「ルーシィ!」
ぐい、と引っ張られた後は何がなんだかわからなくなった。痛いくらいに閉じた目を、ゆっくりと開ける。
「……ナツ?」
桜色が目の前で揺れていた。
「家、無くなっちまった……」
彼は呆然とした表情でそう言うと、彼にしては緩慢な動作で辺りを見回した。まばらに草の生えた空き地に、うつ伏せに倒れたグレイとその上のハッピー、しゃがみこんだエルザを発見する。
「あの子は!?」
「居ねえ」
「消えたようだな……おそらくは、使い過ぎた魔力の反動か」
「そんな」
緩く首を振るエルザに、あの子の魔水晶ではない、と反論したくなったが、動くことができていたのは紛れもなく家の魔水晶の力だ。
それでも。
「だっ、て、あたし、連れて帰るって約束、した……」
ついさっきまで話していたのだ。一緒に遊んで、笑って。誰が何と言おうと、生きていた。
景色が滲む。ナツの声が、雨音のように優しく鼓膜を弾いた。
「喜んでた」
「うん……」
「ルーシィは願いを叶えたんだろ。あいつのも、家の奴のも」
「家……?」
改めて見れば、ナツは随分近くに居た。瞳孔が自分を映すのも、はっきりと見える。
ナツは瞬きもせずに頷いた。
「家の奴も、一緒に遊んでたんじゃねえかな。椅子とかテーブル、あれ一階に置いてあったんだよ。オレが取りやすいように床が抜けたんだ」
彼はそんな嘘は吐かない。慰めるための方便ではないことは、今までの付き合いからして疑う余地がなかった。
ナツの瞳が、ルーシィの心ごと身体を温めてくれる。
優しく、包み込むように。それでいて、
「二人とも、楽しんでたんだ」
力強く、そう締めくくられる。
最後と決めて、ルーシィは鼻を啜った。
「ありがとう。うん……あたしも楽しかった」
跡も残っていない地面と、その空間へと思いを馳せる。
顔を戻すと、ナツと目が合った。何か返したくて、いつも元気をくれる、彼の陽だまりのような笑顔を真似してみる。
ナツが笑った。
「うん、それでこそルーシィだ」
「え」
自分はいつもそんな風に笑っているのだろうか。
ルーシィは驚いたが、それは顔には出なかった。誰でもないナツに言われたことが照れくさい。けれど、嬉しい。