魔水晶を奪われるのが単純に嫌なのか。それとも人形の復讐を止めたいのか。どちらにしても、家は助けを求めてきた。
ルーシィは決意を込めて少女を見据えた。妖精の尻尾として、全力で依頼を達成する。
少女がふいに肩から力を抜いた。

「でもせっかく来てくれたんだし、歓迎するわ。ただし、協力してもらうわよ」
「そんなの」

するわけない。――言うより早く、ガコリと何かが外れたような音がした。
ぐるりと、少女の首が回る。

「ひっ……!」

取り落としはしなかったが、鍵を持つ手が震える。
少女の身体は不自然な形へと変化していった。腕が伸びて関節が増え、代わりに足が短くなる。手の先は細く尖って、指というより錐が五つくっ付いているようだった。その全てが、ルーシィへと狙いを付ける。
喉が引き攣って声が出ない。木の音が薄ら寒く響いた。

「さて。じゃあまずは」

ひゅん、と空気が裂けた。

ルーシィが動けなかったのは、突然異形と化した少女に対する恐怖からではない。明らかに自分に対して向けられていた指が、全く意識しているように見えなかった方――ハッピー――へと伸びたからだった。
ハッピー自身も、まさか自分が攻撃されるとは思っていなかったらしい。声も上げず、絡め取られる。

「っ!?」

幸い錐で貫かれることはなかった。長い指が檻のようにハッピーを包む。

「開け……!」

有効な手立てを思い付くより先に、星霊の――アリエスの鍵を振り上げる。
召喚に必要な魔力がこもる一瞬前、青い猫が消えた。

「なっ!?」

驚愕で魔力が霧散する。星霊界で開きかけた扉を前にアリエスが呆然としたのを感覚で掴みはしたが、ルーシィは構わず少女を睨み付けた。

「ハッピーをどうしたの!?」
「ここに居るわよ」

少女がほんの少しだけ背中を見せる。ハッピーはそこに、まるで背負われているかのように貼り付いていた。
ギルドマークがはっきりとルーシィの目に映る。黙ったままなので気を失っているのかもしれない。
少女が軽く身体を揺さぶった。

「飛ぶ猫よね。その魔法……きっと役に立つわ」

くすりと笑ったかと思うと、少女の背に翼が生えた。

「エーラ!?」
「あら、室内じゃかえって危ないわね」

初めから見せ付けるためだけだったのだろう、小馬鹿にしたような口調でそう言って、瞬時に羽をしまった。
ルーシィは鍵を庇いながら後退った。

「魔法を奪ったの!?」
「魔導士を取り込んだのよ。もちろん――」

少女の顔が笑った。ぞっとする美しさで。

「猫だけで終らせるつもりなんてないわ」

迫力に気圧される。どん、と背中が硬いものに触れ、いつの間にか壁際まで追い詰められていたことを知った。壁一枚隔てた騒ぎが振動となって伝わってくる。

「ナ……!」

呼ぶ暇を与えてくれるつもりはないらしい。腕が鞭のようにしなり、襲いかかってくる。

「くっ!」

掠めた錐が容易にスカートを裂いた。






冷静に考えると猫を背負って闘うのかわいい。


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