正確には天井ではなく屋根だった。いや、両方とも言える。
ナツは無理やりに剥がそうとしているらしく、破壊音もメキメキからベキベキに変化していく。床がまた勾配を作り、壁が軋んだ。
「ナツ、止めて!止めなさい!」
「わああ!」
「家がー!と申しております」
「いかん」
エルザが魔力を解放した。換装と同時に、ホロロギウムをルーシィに向かって滑らせてくる。
勢い良く。
「わ、わわ」
「はぎゅ!」
重厚な振り子時計に少女一人の重み――それが、ルーシィの鼻先で停止した。冷や汗を流しながら下を見ると、ハッピーが食い止めてくれている。
「危な……轢かれるかと思った」
「オイラが轢かれてるよ!」
「グレイ!ナツを止めるぞ!」
「ああ!」
グレイは素早い動作で両手を構えると、氷柱を作り出した。真っ直ぐに天井へと突き刺さる。
「え、ちょ……っ!?」
パリン、と氷が弾けて、開いた穴にエルザが飛び込んだ。豆腐でも切るように、穴を広げる。
「はぁっ!」
「あ、あれ?あの、エルザ……?」
彼女は落下する瓦礫を蹴って飛び上がると、見えていたナツの手らしき部分を武器で叩いた。いつの間に換装したのか、さっきまで振るっていた剣ではなく、まるで大きなうちわのように先が平べったい獲物だった。
「いちっ!?なんだよ!やんのか!?」
ナツは手を引いたが、やはりダメージはないようだった。今度ははっきりと狙いをこちらに据えて、手のひらが迫ってくる。
「はっ、面白ぇじゃねーか」
グレイが氷の槍をそこへ収束させた。ナツがぎゃあぎゃあ喚きながらまた屋根を破壊する。
「痛ぇ!穴開くだろ、てめえ!」
ルーシィは慌てて声を上げた。
「ちょっと待ってよ!グレイ、エルザ!」
「なんだ、ルーシィ。一応ほんのり多分手加減はしてるぞ」
「手加減……だと……?」
愕然としたエルザにはグレイが「忘れてたのかよ」と呆れた顔をした。しかしルーシィが言いたいのはそんなことではない。
「そうじゃないでしょ!家!家壊さないで!」
「あ、心配そっちなんだ」
ハッピーが潰されたままでぼやく。
ホロロギウムはうつ伏せに倒れている。少女が家の破壊されっぷりを見ていないことは幸いだった。
「ナツ、アンタも……っ!?」
こっちの攻撃の手が止まったと見てか、巨大な指がぬっと家の中に入ってきた。グレイを頭上から押し潰す。
「おわっ!?」
間一髪逃れたグレイが床に転がる。今度は床に穴が開いて、ルーシィは頭を抱えた。眩暈がする。
「壊すなと言っているだろうが、ナツ!」
「はあ?って、うおっ!?」
エルザが飛び出して、どこがどうなったのか、また破壊音が響き壁に穴が開く。嘆息して見上げると、もうすでに半分以上天井と呼ぶべきものがなくなっていた。
「どうしようかしら」
「まずオイラを助けると良いんじゃないかなと思います」
「さっきから凄い音がしているんですけど、と申しております」
「……」
ルーシィはハッピーを引っこ抜くと、ホロロギウムを助け起こした。エルザとグレイに向かって叫ぶ。
「あたし達、魔水晶探してくるわね!」
「わかった!頼む!」
「ナツに気を付けろよ!」
「そっちもやり過ぎないようにね!」
なるべく早く戻ってこよう。ルーシィは騒音を背中で聞きながら、ホロロギウムとハッピーを連れて一番近くにあった扉を開けた。