ただの穴となったそこから、ナツの目が覗き込んできた。

「小せえなあ、お前ら」

不思議と恐怖はない。あまり目付きが良いとは言えないナツの瞳に優しさがあることを、ルーシィはよく知っている。
彼はほっとしたように言った。

「いあー、焦った。二階上っても誰も居なくなってっし」
「それそっちの家のことでしょ?気付きなさいよ」
「むぅ」

いくら同じような作りだとは言え、そう容易く勘違いするものだろうか。
どこか違和感を覚えて首を傾げると、グレイがわかりやすい違いを指摘した。

「こっちは階段がスロープになってただろ。お前が落ちてった――」
「こっちもなってるぞ?」

ナツの目が居なくなって、代わりに髪が押し付けられた。どうやら振り返ったらしい。目にする面積が増えたせいで、桜色は普段よりも淡く見えた。

「物も散らばってたし」
「え?」

辺りにはさっきまで飛び交っていたポルターガイストの痕跡が残っている。まるで乱闘後のギルドのようだった。
事が起きたのは間違いなくおもちゃの家の方だ。

「なんで?」

ハッピーが二、三度瞬きした。エルザが眉間に皺を寄せる。

「ナツ、二階の窓はどうなっている?」
「二階の窓?」
「今お前が破ったこの窓だ」
「見てくる」

風が勢いよく吹き込んでくる。なぶられた髪が目に入りそうになって、ルーシィは後ろを向いた。
遠くで、ナツが「壊れてるー!」と叫んだのが聞こえた。

「どういうこと?」

少なくともおもちゃの家で起きた変化が向こうにも現れているらしい。
答えを知るはずの少女は不機嫌そうな顔をしていた。華やかなフリルの付いた袖を、イライラと弄る。

「この家、とっても大事なんですけど、と申しております」
「そ……それは本当にすまない。必ず修繕する」

エルザの謝罪に対し、ホロロギウムは声を潜めた。恐らく少女が小声になったのだろう。

「壊されたら私の計画が水の泡じゃない、と申しております」
「え?」
「えっ、あ、なんでもないです、と申しております」

少女は両拳を胸の前で握った。連動するように、ホロロギウムが強く発声する。

「とにかく、魔水晶を探して、と申しております」
「そうだな」

グレイがホールから繋がるいくつかの部屋のうち、一つの扉に手をかけた。だかだかと家が振動して、ナツが戻ってくる。

「バッキバキだったぞ。誰があんな酷ぇことしたんだ」
「キッパリとアンタだからね!」
「でもおかしいな、音しなかったんだけどな」

ナツの眉が動く。エルザが首を振った。

「疑問はたくさんあるが、今はそれより魔法の暴走をなんとかしよう。ナツ、今から私達はこの家の魔水晶を探す。それを操作すれば、攻撃してきたり排除してきたりしないはずだ」

そういえばどうして攻撃するのかしら。排除できるなら初めからそうすれば良いのに。

今攻撃が止んでいるのも気にかかる。誰を攻撃して誰を排除するのか、その基準は――?
壁や天井から品定めするような視線を感じる気がして、ルーシィは身を震わせた。
ナツの目がぱちりと瞬いた。

「魔水晶を探せば良いんだな?任せろ!」
「へ」

窓からナツが見えなくなる。
めき、と天井が音を立てた。






任せられない。


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