「その子は!?」
「依頼人だ、狙われている!」
「ルーシィ、危ない!」
髪が後ろに勢い良く引っ張られる。首がぐきりと鳴ったが、それまで顔のあった場所を尖った何かが通り過ぎていくのを見て、ルーシィはハッピーを叱るのを断念した。
「ありがと。ハッピーはここに居て」
「え、ルーシィは?どうするの?」
「よく見えないけど、女の子が居るみたいなの。ホロロギウムで保護するわ」
ホロロギウムならば物が飛んでこないこちらに連れてくることも可能だ。ただし、ルーシィから離れたところに出現させることは出来ない。それに加え、まだ対象をきちんと視認できてすらいない。
「行かなきゃ」
「この中を?」
もちろんそこは策がある。と、言うほどのことではないが。
聞こえているはず――。ルーシィは息を吸った。
「ナツ!」
「わかった!」
短い返事を得たと同時に、ルーシィは飛び出した。真っ直ぐにエルザを目指す。
「走れ!」
飛んで来る物達はナツが叩き落としてくれた。炎を使うのは諦めたのか、グレイの言ったとおり手や足で攻撃している。
それでも彼の体術ならば十分に守ってくれる。カッコイイよ、とはなんだか恥ずかしくて言えず、ルーシィはお礼だけを口にした。
「ありがと!」
「そろそろいけんだろ?」
「うん!開け、時計座の扉!」
鍵に魔力を込める。ただ中に居るとやはり、ポルターガイストは依頼人を狙っているのがわかる。もしかすると自力でも避けられる範囲だったかもしれない、と思いながら、ルーシィは星霊界に通じる扉を開いた。
「ホロロギウム!」
狙いどおり、檻の中に時計座の星霊が出現する。言葉で頼まずとも、ホロロギウムは依頼人を匿ってくれた。
「ありがとう!」
「助かった……と、申しております」
後は彼女をハッピーのところまで運べば良い。檻を解除してもらおうとグレイを振り向くと、彼は飛来物を床に氷で固定しているようだった。ゴチャゴチャした塊の向こうで忙しく働いている。
呼びかける前に、エルザが動いた。
「よし、行け!」
バットの一撃はいとも簡単に檻を破った。バキン、と重い音を立てて格子が折れる。
「ホロロギウム、こっちに……あれ?」
空気を切り裂くような飛来音がふつりと消えた。ぼたぼたと、床を叩く音に変わる。
「止まった……?」
数秒もたたない内に、それまでが嘘のように静まり返った。ナツの背中が警戒を解く。
「んだよ、もう終わりか?」
「ほっとした顔してんじゃねえかよ」
「しっ、してねえし!」
グレイが鼻で笑って指を鳴らした。氷が霧散する。
エルザがバットを肩に担いだ。
「何が原因かはわからない。油断はするな」
「とにかく良かったわ、ホロロギウムが傷付かなくて」
狙われている依頼人を中に入れている以上、最も危険であることは間違いなかった。エルザの持つバットに多数の釘が刺さっていることには多少頬が引き攣ったが、ルーシィは胸を撫で下ろした。
ホロロギウムが口を開いた。
「あなた達は誰?と、申しております」
「妖精の尻尾です。依頼を受けて来ました」
少女の年齢はルーシィと同じくらいか、少し下のようだった。大きなリボンを着けた頭を、可愛らしく傾げる。
「依頼……?と、申しております」