ルーシィには悲鳴の方向が明確にはわからなかったが、ナツは迷いなく二階への階段を上っていった。三、四段をゆうに飛ばして駆け上がる。

「ナツ!」
「行くぞ!」

ルーシィは最後尾で彼らを追いかけながら、周りの様子に目を走らせた。まるっきり、さっき居た家と変わらないように見える。
二階の物音は何か硬い物同士がぶつかるような音だった。その合間に、押し殺したような短い悲鳴が断続的に聞こえてくる。

「もう、ホントに何が起こってるの!」
「ルーシィ、階段上るの遅いね。身体重いの?太った?」
「わざわざ戻ってきて言うこと!?」

失礼すぎるハッピーの長い尻尾を捕まえて、ルーシィは後ろを振り返った。ここからでは見えないが、寝室の方向に首を向ける。
この家の寝室にも小さな家があって――その玄関扉を開けるとまた中に――……という展開も、お話ではよくあるパターンだ。

そして一度取り込まれた人間は延々と――。

ぶるりと身震いしたとき、ハッピーが「何あれ!?」と叫んだ。

「え?な、何これ」

階段を上った先は廊下の端で、左側にホールのような開けた空間があるようだった。ナツの炎とグレイの氷の気配がするそちらの方から、高速で何かが飛んでくる。それも一つや二つではない。
目を凝らして確認できたのは、ペンや本、靴下にフォークだった。ジャンルに何の偏りもなく、ただ家の中にある物を適当に掻き集めたような印象を受ける。

「あ、グレイの服だ」
「……」

見覚えのあるそれを視界に入れないようにして、ルーシィは引き続き現状の把握に努めた。軌道は定まっていなく、ランダム。壁に当たるぎりぎりを掠めてUターンし、またあちらへと戻っていく。見てはいないが、それを繰り返していることは容易に想像がついた。

「全部落とすぞ!」
「おい炎引っ込めろ!火事になるだろ!」
「はああ!?じゃあオレに何してろってんだよ!」
「素手でも何でも叩き落とせるだろうが!つか盾になれ!いや、むしろ的になってろ!」
「ふっざけんな!」

二人の声量が上がるにつれ、飛び交う物の数が増えていく。口論のせいで疎かになっているのは明らかだった。

「ちょっとアンタたち!」

一歩踏み出しかけて、ルーシィは足を止めた。ここは壁がせり出しているおかげで物が飛んで来ない。

「そっち、どうなってるの!?」
「ルーシィ!」

返ってきたのはエルザの声だった。

「飛んで来る物を切るな!増えるだけだ!」

何が飛んでいるのかわかりにくいのはスピードのせいだけではなかったらしい。元が何だったのか判別不能な破片が、目の前を横切っていく。
勇気を出して覗いてみると、エルザはバットで飛来物を打ち返していた。氷の檻を庇うように立っている。
その中には誰かが居るようだった。

「ううう、なんなのよぉ……」

震えた声音は魂からのものだったのか、騒音の中でもルーシィの耳に届いた。

まだ少女の声だった。






オレはナツ!火事手伝いだ!


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