三秒ほど固まってから、ルーシィはこの部屋に入ったそもそもの目的を思い出した。

「え……」

息が詰まる。家からソロソロと後退って、自分の腕を抱いた。急に不気味な物に思えてくる。

「おいナツ、何の音なんだよ」
「わかんねえ。物音みたいだけど」

ナツはそれを無造作に掴み上げて、ガショガショと振った。

「ちょ、ちょっと待ってよ。もっと丁寧に扱って」
「そうだよナツ。呪われたらどうするのさ」
「怖いこと言わないで!」

どうやら家具類は接着されているのか、中がぐちゃぐちゃになっているわけではないようだった。振った際に音がするのはカーテンのせいらしく、二階部分に飾ってある人形が、動くそれの隙間からちらりと見えた。

「おーい。誰か居ねえのかー?」

小さな玄関を指先で開けながら、ナツが尋ねる。

その言葉が滑稽に思えたのは、一瞬だけだった。

「!?――!……!!」

悲鳴を上げたいのに声にならない。痛みはないが全身が引き伸ばされて拗じられたような感覚だった。
しかしそれもまた一瞬だったのだろう。ルーシィは瞬きしている自分に気が付いた。

「え……?」

呆然が先に立って、目に映る物へと焦点が合わない。
エルザの声が叫んだ。

「全員無事か!?点呼!」
「へ?あ、オレか?いち」
「に……」
「さんー!」
「よん」
「…………一人足りない……?」
「エルザ、自分自分!」

寝室ではなく、どうやら玄関に居る。時間が巻き戻ったとしか思えない。

「どういうこと……?」

グレイが険しい表情でカーテンを開けた。

「おい、外見てみろ」

おおよそ、窓の外とは思えない風景が広がっていた。草や木といった緑は何もなく、もちろん来たはずの道も見えない。ただ少し離れたところに巨大な壁が立ちはだかっているだけだった。

「ど、どこ?ここ……」
「あれ、ベッドだろ?」
「え?」

壁に目を凝らす。柄があるのを視認した途端、記憶が呼び覚まされた。さっき寝室で見た、ベッドのスプレッドだ。

「じゃあ、この家」
「ああ、おそらく」

続きはエルザが引き継いだ。

「あのミニチュアのようだな。ナツが玄関を開けたことで、中に入ってしまったんだろう」

彼女は玄関扉を開けようとしたが、押しても引いても横に動かしてもどうにもならないようだった。

「ふむ……ここは開きそうにないな。壊せるとは思うが、そうすると元に戻れなくなる可能性もある」
「ったく、いっつも不用意にやらかしてくれるな、ナツさんよぉ」
「ぐ。でもこれで音の正体を探せるだろ」

ナツが両耳に手を翳す。が、ルーシィにさえもハッキリと物音が聞こえた。しかもそれだけではない。

「悲鳴だ!」






これぞトラブルメイカー。


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