「誰か居ませんかー?」
ルーシィは家の奥に向かって声を張り上げたが、何の返事もなく響いただけだった。家具や調度品はあるのにがらんとした雰囲気なのは、人の気配がしないせいだろう。
「ここで合ってんだよな?」
グレイがエルザに確認する。彼女もちょうど依頼書を取り出したところだった。
「間違いない。しかし留守か……」
「鍵もかけずに?」
あまり人口の多い町ではないが、それなりに人通りはある。施錠もせずに出かけるなど考え難い。
「いあ、留守じゃねえ」
人一倍感覚の鋭いナツが言い切った。
「音が聞こえる」
「音?」
「こっちだ!」
無遠慮に手近なドアを開ける。勢いで一番上の蝶番が外れた。
「ちょ、ちょっと」
「どこだー!おーい!」
肩に乗ったハッピーの長い尻尾が空中になびく。
止めようかと思ったが、エルザに制された。
「ナツの耳を信じよう」
「耳は信じても良いけどよ」
グレイがごちた瞬間、ドアの向こうからバタン、と何かが倒れる音がした。
「頭は信用できねえな」
「ナツ!何をした!」
「くっそぉ、何かに躓いた!」
ルーシィが部屋の中を覗くと、ナツが壁を背に座り込んでいた。どうやら寝室のようで、窓際にベッドが設えてある。
ナツの前には確かに何かがあったが、部屋が暗くてわからない――と思ったタイミングで、グレイが明かりをつけてくれた。
「これは……」
「家?」
どこかで見たような、ミニチュアの家だった。ルーシィが抱えられる程度の大きさだが、外壁も窓も精巧に作られている。
グレイが腕を組んだ。
「これ、この家じゃねえか?」
「あ、そうかも」
今居る部屋は玄関の左。窓から見る限りちゃんとベッドも置いてある芸の細かさに、ルーシィは感心した。
「凄い」
「あい。オイラも欲しいな、こういうの」
エルザも興味津々といった表情で覗き込んでいる。彼女が「良いな」と呟くのを横目で見て、ルーシィは微笑んだ。
「家って良いよね。夢が膨らむって言うか」
「新居……壁は白で……芝生とテラスと」
「あら、聞いてない」
エルザの瞳はどこも見ていない。ほんのりと染まった頬に、ルーシィは彼女の思い描く未来図が見えた気がした。今はどこに居るのかも定かではない彼が、脳を掠める。
「ふむ、やはりペットも欲しいな。クマとキリンとカバ……どれを飼うべきか……」
「そこは馬くらいにしとこうよ……。そうだ、二人乗りしても素敵じゃない」
「そ、そそ、そうか……」
ナツがビシリと指を差してきた。
「ソレだ!」
「え?馬?」
「ソレから聞こえる!」
彼の指は、家の模型に向いていた。