二人の話は弾んだ。
コルネトは話題が豊富で、話し方も聞きやすく面白い。
ルーシィは小人の世界の話に耳を傾けながら、自分が滅多に得られない知識に触れていることに歓喜した。

「え、じゃあ人間と結婚することは珍しくないの?」
「本来、他種族とも気が合えば結婚できるんだよ。知り合う機会が少ないだけさ。チェンジリングという迷信は知っているかい?フェアリーが人間の子供をさらって代わりに自分の子供を置いていくという、取り替え子の話。あれは言わば人間と他種族との駆け落ち話に、適当な尾ひれが付いたものなんだよ」
「へぇー」

がたん。

窓が鳴った。二人がそちらを向くと、騒がしい滅竜魔導士が窓を開けている。

「また窓から!」
「あれは…さっき言ってた、困った魔導士仲間?」

窓枠を乗り越えて入ってきたナツは、ルーシィの姿が見えないと、躊躇い無く風呂場を覗いた。

「あれ?いねぇ」
「せめて声かけてからにしなさいよ!」
「ん?」

がたがたと騒がしい中でも、ルーシィの声はナツの耳には届いたようだ。声の出所を探ろうと、ナツが机に近付いてくる。

「……何で小さくなってんだ?」

目を丸くして、インク壷に座ったルーシィの頭に、人差し指で触れてきた。

「わ、ちょ、怖いって!」
「うお、動いた!」
「今更!?」

ナツはルーシィの向かい、本の上に座るコルネトを視認した。「誰だ?」と無遠慮にじろじろと角度を変えて見るナツに、コルネトの頬が引き攣る。

「あのね、ナツ。この人はコルネト。小人なんだって」
「小人?」
「うん。あたし、ちょっと小人の世界にお邪魔してるの」
「そろそろ25分だね。解除しようか」
「ん、ごめん、コルネト。あたしとりあえず戻――」

言いかけたとき、ナツが右手にぐぉっと炎を纏わせた。

「よっし、小人!勝負だ!!」

にかっと無邪気に笑って、コルネトの正面に拳を下ろした。それは彼と向かい合っていたルーシィの正面でもあって。

「っ!?」

ナツの炎は見慣れているはずなのに、急に現れたその大きさに、ルーシィは体が竦んだ。コルネトが咄嗟にルーシィを庇って机の上に伏せる。

「……っ…」

ルーシィの意識は、闇に沈んだ。




「どうして起こしてくれなかったんだ!」

覚醒した意識が、その声を拾った。ルーシィはばっと体を起こす。
朝日が、眩しかった。
巨大化したベッドの枕元で、ルーシィは寝かされていた。

「だって、オレの所為だし…無理に起こすのは悪ぃと思ったんだよ」

珍しくバツの悪い表情で、ナツが頬を掻いた。反省はしているらしい。
ルーシィはその光景に昨夜の出来事を思い出した。この小さな体では、ナツの暴力的な炎は命取りになるということだ。
一つ学習して、ルーシィは何か大切なことを忘れている気がした。それは、すぐにコルネトの言葉によって思い出すことになったのだが。

「どうするんだ!彼女は、もう人間に戻れなくなったんだぞ!」
「………え?」

ルーシィの喉から音が漏れた。ナツがスローモーションのように、ルーシィに視線を向ける。

「なんだよ、それ…」
「小人化の魔法は30分以内に解除しなければ固定される。一時間以内であればなんとかなったかもしれないが…もう朝だ!6時間以上は経っている…」

コルネトは視線を外して、

「もう、人間には、戻れない」

ゆっくりとした言葉が、ルーシィに染み渡った。戻れない。一生、このまま。小人として。
暗くなった視界で、ナツが自分よりも青いんじゃないかと思うような顔色で立ち竦んでいる。なんだかおかしくなって、ルーシィはそんな場合じゃないのにくすりと笑った。






さりげなくチェンジリング。別に伏線じゃないです。
ナツの炎は別にルーシィにもコルネトにも当たらないはずでした。コルネトが動いたことによって二人とも炎がより間近になり、恐怖で気を失った…と思われます。
悲しくても嬉しくても、周りが先に騒ぐと妙に冷静になること、ありますよね…。



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