グレイの前にも水流があるのだが、妙に白い。

「さあ、グレイ様!」
「いや、こんな食えねえし」

そうめんが集まるようにジュビアが操っているのだと、理解するのにさして時間はかからなかった。

「グレイだけずりぃ!」

水流を飛び越して、ナツがグレイの上流に陣取る。が、グレイに真っ先に食べてもらいたいのだろう、ジュビアはナツを避けるように水流を曲げた。

「んなっ!?」
「はん、大人しくオレの下流で食え」
「ぬぬぬ……」

ナツの判断は素早い。正しいことも、そうでないことも。
そして行動に移すのは、もっと素早い。

「それならこうだ!」
「うお!?」

グレイの背中に飛び乗って、頭の上からフォークを繰り出す。

「二人羽織ー!」
「うぜえ、下りろ!」

二人羽織ではナツは食べられない。それ以前に、そもそも二人羽織ではない。
ツッコミを入れたかったが少し距離があるので自重する。代わりにハッピーが「羽織ってないよ」と呟いた。

「くぬっ、届かねえ!グレイ、しゃがめ!」
「誰がしゃがむか!」
「おわぁっ!?」

グレイが下がってきたナツの首をホールドして、背負い投げるようにそうめんの川に落とす。派手に突っ込んだナツは黒い服に白線を付けてしまうまのような柄になった。巻き散らかされたそうめんが、かなりの範囲に降り注ぐ。

「うわ!」
「止めろよ、お前ら!」
「食いモン粗末にすんな!」

仲間達の制止や罵声など、二人の耳には入っていないようだった。「何すんだ!」だの「てめえこそ!」だのと大声で喚き合っている。もちろん、口だけではなく手も出ていた。

「あたし、この後の展開が予想できるわ」
「オイラも」

同時に、すっと後退る。ナツとグレイを中心として水流が凍っていったのは、その直後だった。
タイミング悪くフォークを触れさせていた者は一緒に氷像と化していく。手から水流を生み出していたジュビアも、ぱきりとその場に氷漬けとなった。

悲鳴が飛び交う中、一人だけその場に悠然と佇んでいる者がいた。エルザだ。

「エルザ!そこ危ないわよ!」

彼女は無言で横たわった氷柱からそうめん部分を切り出した。かちかちと箸を鳴らして、氷を突く。

「食えん。ナツ、これを」
「やんのか、ァア!?」

グレイの氷に対し、ナツの熱量が爆発する。
氷が溶け、一部は蒸発し始めた。一気に水蒸気のこもった室内がサウナ状態になる。

「暑っ!」
「ふむ、これは……にゅうめんと言うのだったな」
「マイペース過ぎ!」

エルザの関心は二人の喧嘩よりもそうめんにあるらしい。「箸を使ってはみたが上手く取れなくてな」と恥ずかしそうに笑う彼女は可愛らしかったが、今は和んでいる場合ではない。
もう一度避難を促そうとした時、彼女の椀に何かがひらりと落ちてきた。

「え?何?」

濃い灰色の、布だった。その正体にいち早く気が付いたらしいハッピーが、指まで差して言い当てる。

「グレイのパンツだ」
「……」

エルザは換装する前から床を蹴っていた。

後は悲鳴と、轟音と――

「へ?」

パンツが空を飛んでいく。

ぽかんと開いた口を意識して閉じて、ルーシィは呟いた。

「何が起きてんの」
「あ、あれだよ!当たり!」
「当たり?って……」

ぴょこぴょこと跳ねるハッピーに、ナツの『当たりが出るまで』を思い出す。
パンツが飛んだ先にはビックスローと、流す前のそうめんをマスターと並んで食べているラクサスが居る。そのそうめんの上で狙ったようにさくらんぼが姿を現すのを見て、ルーシィは額を押さえた。

「今日は大怪我コースね」
「すでに大怪我だと思うけどね」

エルザにのされたナツとグレイは、二人ともそうめんまみれで沈黙している。

そして雷光が、網膜に痛みを残した。






ノウンフライングパンツ。
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