そうめんにゅうめん





ジュビアの作り出した水流に乗って、白い麺が流れてくる。

「うほぉー!」

ナツが目を輝かせて、それにフォークを突っ込んだ。絡まった麺をつゆの入った椀に浸し、ずるずると吸い込む。

「むぐ、んん……!けほっ、えふっ」
「急ぎ過ぎよ」

ルーシィは椀とフォークを片手で持ち直して、咳き込んだ彼の背中を擦ってやった。目の前を通過した麺は、今度はハッピーに拾われていく。

「わ、悪ぃ。今の、ルーシィのだったのに」
「え、良いわよ。別に誰のってわけじゃないし、すぐ無くなるものじゃないんだから」
「ルーシィ……お前、心広いな」
「あい」

一人と一匹に眩しいものでも見るような目を向けられて、ルーシィは頬を引き攣らせた。彼らにとっては『自分の分の確保』というのはとても重要なことらしい。

今日はギルドをあげて流しそうめんをしている。マスターが趣味でそば打ちをしてみようか、という話から何故かこうなった。経緯はその場に居たはずのルーシィでさえ、よく思い出せない。面白ければそれでいいノリのギルドメンバー達は、誰一人として深く考えてはいないようだった。

「次々行くぞー!」
「おー!」
「うげっ、半分も取れなかった……」
「もーらいっ!」
「そこ、堰き止めてんじゃねえよ!」

わいわいと騒ぎながら、楽しそうに堪能している。
ハッピーはつゆに泳ぐ麺を見下ろして尻尾を揺らした。

「美味しいけど、オイラお魚が良いなぁ。せっかく水が流れてるんだから、お魚が居たって良いのに」
「良くない!」

水槽に流れるそうめんを食べる気にはならない。が、言っている間に、流れているのがそうめんだけではないことに気が付いた。

「何あれ?」

ところどころ、赤や黄色い物がある。ルーシィは流れてきた赤いそれに向かってフォークを刺してみたが、動いていてかつ丸いために捉えられなかった。またジュビアの水流には底がなく、追い詰めることも出来ない。

「行っちゃった」
「任せろ!」

ナツがフォークを掲げて下流へそれを追いかけていく。その背中を見送った直後、また次の赤丸が流れてきた。待ち構えて、難なく拾う。

「さくらんぼだわ」
「さくらんぼ?オイラにも取ってー!」
「はいはい」

スムーズに二個目もゲットし、ハッピーの椀に入れてやる。黄色い方はみかんのようだった。
仲間達を蹴散らすようにして走って行ったナツが、また騒音と共に戻ってきた。手掴みでいったのか、さくらんぼを乗せた右手から水滴を垂らしている。

「ほら、ルーシィ!」
「あ、ごめん、自分で取った」
「うぉい!?」

転びかけた彼にくすりと笑って、ルーシィはさくらんぼの茎――確か果柄と言ったか――を摘まんで揺らした。が、その瞬間、ナツがぱくりと食い付いてくる。

「ひゃっ!?」
「もぐ、交換な!」

ぽちゃりとつゆに入れられたさくらんぼが、一瞬沈んでからぷかりと浮かぶ。労力を無駄にしたくないだけかもしれないが、ルーシィのために取ってきたのだと言われたような気がして、頬が熱くなった。

「もう……ありがと」
「へへ」

ナツの笑顔が眩しい。ルーシィはさくらんぼをフォークで突いて、鼓動が落ち着くのを待った。






果物飾る風習はどこのものなんだろう。


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