ピヨピヨと、ひよこ達は鳴いている。ルーシィには生後どのくらいなのか見当もつかないが、まだ黄色い、ふわふわした心もとない存在だった。
その目線まで覗き込んで、ハッピーが尻尾を揺らした。
「かわいいね」
「そうね」
「ルーシィに似てるな」
ナツが一匹を掴んでそう言った。突然の発言に、耳まで熱くなる。
「な、何よ、いきなり」
「うっせえとこがそっくり」
「そんなことだろうと思ったわ!」
ドキドキしたのが勿体無い。しかしこんなことにも慣れてしまって、ルーシィはすぐに首を振った。
「じゃ、始めましょうか」
「あい」
「どれ」
ナツが手に乗せたひよこの羽を広げる。ルーシィも一羽捕まえようとして、ひよこ達に両手を伸ばした。そっと追い詰める。
「おいでおいで」
「怖がられてるね、ルーシィ」
ひよこにしてみれば、人間の大きさはそれだけで脅威だろう。動物に好かれるのは良い人の象徴のようで望ましいが、そうでなくとも仕方がないと思う。
ルーシィはせめて優しくひよこを抱き上げた。そろりと羽を摘まんで、長さを確認する。
指示のかかれたボードの絵とひよこを見比べて、ルーシィは眉を寄せた。
「えっと……よくわかんないんだけど」
「見せてみろ。あ、メスだな。ほれ、こっちがオス。そっちはここんとこ長いだろ。んなこわごわ持ってねえで、もっと広げてみろよ」
「あ、ホントだ」
ひよこをメスの箱に選り分けて、ルーシィはもう一羽捕まえにかかった。ナツは目が良いのと思い切りが良いせいか、ばしばしとひよこを分けていく。
ルーシィはしばらく経ってから口を開いた。
「ねえ?」
「うん」
「これってさ、魔導士の仕事じゃないわよね?」
ひよこを雌雄で分ける――全く、魔力を使わない。
ナツは手を止めて顔を上げた。
「ギルドに来た依頼だぞ」
「あい、オイラが選んだんだから、間違いないよ」
ハッピーが箱の中を探りながら誇らしげに頷く。ルーシィは猫に半眼を向けた。
「なんでこんなの選んだの」
「おいしそうかと……間違った、面白そうかと思って」
「間違い方酷過ぎ!……え、食べないわよね?」
不安になって、確認する。ハッピーは「食べないよ。オイラはお魚が好きです」と否定してから、小さく肩を竦めた。
「ナツはどうかわかんないけど」
「オレか?オレは魚より肉派だな」
「やめてよ!?」
「食わねえって、こんな小せえの。大きくなるまで……いてっ」
ナツの手をひよこが突く。まるで会話を聞いていたかのように執拗に攻撃するひよこ達に、ルーシィはにっこりと笑った。
「かぁわいい」
「む」
「ナツだってかわいいと思うでしょ?」
一羽を手に乗せる。細い足がちたちたと手のひらを歩いてくすぐったい。
ナツは唸って首を捻った。
「カワイイってよくわかんねえ」
探るような表情で――実際、探っているのだろう――少しだけ視線を落とす。
そして何かを見付けたかのように頷いた。
「良いとは思ってるぞ。うん、好きだ」
「な……なんかドキッとすること言うわね」
「ドキ?『ドキ』じゃねえよ、『スキ』」
「わかってる!」
ナツはことりと小さな子供のように首を傾げた。
「『カワイイ』ってこれで合ってるか?」
「ふふ、そうかもね」
わからないなりに表現を模索してくれたのが嬉しい。手のひらのひよこがピヨ、と短く鳴いた。
「二人共、手ぇ止まってるよ」
「ごめんごめん」
ハッピーに促されて仕事に戻る。三羽さばいたところで、ルーシィはまた魔導士としての自分に疑問を持った。なぜこんな依頼がギルドに来たのだろう。
「ねぇ、これやっぱり――」
魔導士の仕事じゃないわよね、と言いたかったのだが、ナツの声が割り込んだ。
「やっぱルーシィと似てる」
「はいはい」
「カワイイとこ」
「へっ?」
がしゃん、と箱がひっくり返る。逃げ出したひよこ達にハッピーが悲鳴を上げた。