森の小人






執筆活動に勤しむルーシィが辞書を取ろうと顔を上げると、机の上にいたそれと目が合った。

「……えと」
「なんと美しい」

静かな部屋でなければ聞き逃してしまうような、小さい声だった。きっとあの騒がしい滅竜魔導士がいたなら、ルーシィには聞き取れなかっただろう。そういえば今日は帰宅を待ち伏せしていなかった。まさかこれから来るわけじゃないでしょうね?
ルーシィは少しだけ逃避しかけた意識を目の前のそれに戻す。

「……」

それはこざっぱりとしたスーツを着た、若い男だった。切れ長の涼しげな目元が印象的な、クール系。所謂、イケメン。足も長い。

「僕はコルネトと言います。素敵なお嬢さん、お名前を聞かせていただけないですか」
「あ……あたしはルーシィ。あの……あなたは、何、かしら?」

失礼にならない言い方を考えたが思いつかず、ルーシィは結局ストレートに尋ねた。
男の背丈は10cmも無かった。いや、これでは全長と言った方が適切ではないか。

「ディナ・シー…人間から見て、小人と呼ばれる種族です。普段は人の目に触れることなく暮らしているのですが…貴女があまりにも美しいので見惚れてしまいました」
「まぁ…正直な人ね」

褒められれば悪い気はしない。ルーシィはにこり、と笑った。コルネトは目を細めて頬を染める。

「貴女ほど美しく可愛らしい女性に出会ったのは初めてです。僕の生涯の伴侶になっていただけませんか?」
「え?そ、それはちょっと困るというか…大体あたし人間だし」
「それには心配及びません。人間が小人になる方法はあります」

コルネトは右手を差し出した。手のひらの上で、フワリ、と緑色の光の球が浮いた。

「これは人間が一時的に小人になれる魔法です。30分以内に解除すれば元に戻れます。どうです?少しの間だけ小人になって、僕とお話していただけませんか?気に入らなければもちろん縁談は進めません。…それでも、お友達になっていただきたいのですが」

その真剣で謙虚な眼差しに、ルーシィは迷った。縁談を受ける気はさらさら無いが、友人なら問題ないし、小人にもなってみたい。きっと小説のネタにもなるだろう。
少し逡巡して、30分くらいなら、と覚悟を決める。

「うん、いいわ。どうすれば良いの?」
「この光球を、右手で握り潰してください」

小さな光の球を右手で受け、手のひらで転がし――息を吸って握り締めた。

「っ!」

視界が急激に歪んで、ルーシィは思わず両目を瞑った。平衡感覚が崩れて上も下もわからなくなる。
両手拳を握って感覚が戻るのを待つと、

「もう大丈夫ですよ」

コルネトの言葉がさっきまでよりもずっと大きく聞こえた。
恐る恐る目を開けると、ルーシィは椅子の座面の真ん中に座っていた。

「わぁ…っ!」

何もかもが大きく見える。ルーシィは立ち上がって、机の上を見上げた。コルネトが見下ろしている。

「ちょっと待ってくださいね」

コルネトが両手を合わせて念じると、ルーシィの体が机の上に浮き上がった。






ディナ・シーは体長20〜30cmほどらしいので(wiki調べ)違うけれど、とりあえず名前だけ借りてきました。


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