みえる





何かあったときのために鍵に指をかけながら、ルーシィはゆっくりと部屋の中を見回した。
物のたくさん乗った机、本が乱雑に詰め込まれた棚、薄汚れたラグマット――どこにでもあるような、書斎という雰囲気の部屋だった。やや埃っぽいような気はするが、それは単に視界に与えられた印象に過ぎないように思われる。現に窓からの光に透かしてみても、空気は至って綺麗だった。
ルーシィはしばらく目を凝らしていたが、変わった物は何も見えなかった。諦めて、隣のナツに任せる。

「どう?」
「んんー?」

ナツは期待を裏切って首を傾げた。彼の目の良さなら何とかなるのだろうと高を括っていたルーシィは、ぎょっとして目を見開いた。

「え、嘘。ダメそう?」

部屋の中に何か小さなものが飛んでいる――。今回の依頼はその退治だった。依頼人にも何なのかはわからず、悪さしてくるわけでもないらしいが、目障りだという。ほぼ引きこもりのような生活をしているとのことで、一日の大半をこの部屋で過ごすためにかなり参っているらしい。
緊急ではないため報酬は低いが、簡単に終わる仕事だと思ったのだ。ナツさえ居れば。
ナツは目を細めてあちこち見回していたが、やがて首を振った。

「つか、何も見えねえ」

その答えに愕然として、ルーシィはハッピーを見下ろした。彼もまたちょうどルーシィを見たところで、ぴたりと目が合う。

「どうしよう」
「あの人、ナツより目が良いの?」

ハッピーが信じられないというような顔で一つしかない扉を見やった。あの人――ちょっと前にこの部屋を出て行った、冴えない男性を思い出して、ルーシィも眉を寄せる。

「そんな凄い人には見えなかったけど。てか眼鏡かけてなかった?」
「とにかく、オレには何も見えねえ」

悔しそうに言って、ナツが空中を睨む。そのまま、彼はくっ、と顎を引いた。

「でも何か居るっつってんだから、やることは一つだな」
「……何?」

イヤな予感がする。言葉では促してみたものの、ルーシィはナツの腕を掴んで止めた。直感がそうすべきだと告げていた。

「まさかとは思うけど、無差別攻撃とかするつもりじゃ」
「何言ってんだルーシィ。まさかだなんて」
「違うとこ否定して!」

依頼人は一応避難させたが、家財道具はそのままここにある。いや、ナツの攻撃では部屋そのものが無くなってもおかしくない。
ナツは拗ねたように唇を尖らせた。

「じゃあどうすんだよ」
「まだ居ないのかもしれないじゃない」

それは咄嗟に出た言葉だったが、ルーシィは自分に気付かされて両手を打ち鳴らした。

「そうよ、条件があるのかも」
「条件?」
「例えばほら、静かにするとか」
「……」

ぴたりと、お喋りが止む。無言のまま、ナツとハッピーはシンクロしたように全く同じ動きで辺りを見回した。

「ぷっ、やだ、あんたら面白いわね」
「あ、ルーシィ喋った」
「罰ゲームだね」
「いつそんな話になったかしら!?」

考えてもいなかった『罰ゲーム』の言葉に片眉が上がる。ナツ達はルーシィそっちのけで楽しそうにその内容について話し合い始めた。






隙あらば罰ゲーム。


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