「あ?」

首を回すと、いつの間に居たのかジュビアがそれを掲げていた。まるで神への供物のように捧げ持っている。

「グレイ様がジュビアに!」
「違ぇよ!」
「一生大切にします!」
「おいこら、あのな」

狭い範囲をスキップする彼女は聞く耳を持たない。グレイは髪を掻き回した。
どのみちあの靴は半時間も形を留めていないだろう。が、そのままにしておくのもジュビアを調子に乗らせるだけだ。
指を鳴らして靴を氷の粒に変える。悲鳴を背中で聞いて、グレイはナツの手元に視線を戻した。

「お?」

この短時間で急激に靴らしい形になっている。本気で手助けしてやろうなどとは思っていなかったのだが、見本の効果はあったらしい。

「んぐぐぐ……」

不自然に腕を動かしながら、ナツがガラスの縁を整えていく。作業が上手くいかないのはガラスを手の上で扱わなければならないせいもあるのだろう。

「こう、だろ……こう……おおっ、出来た!」

相変わらずくにゃくにゃと心許ない形状ではあるが、靴っぽくはある。しかしヒールはほぼ無いに等しく、冷静な目で見ると前衛的なカゴだった。
ナツは嬉しそうに目を輝かせて、まだ熱いせいでややくすんだ色のそれをグレイの鼻先に近付けてきた。

「ほら!」
「あぶねっ!何しやがる!」

咄嗟に首を引いたが、熱気は十二分に伝わってきた。思わず造形した氷のハンマーが、ナツの頭を叩く。

「んご!?グレイ、てめえ!」
「お前、それデカ過ぎじゃねえか?」
「攻撃しといて何事も無かったかのように言ってんじゃねえ!」

造形魔導士であるからには、身近な人間の等身大氷像くらい簡単に作れる。が、わざわざルーシィを作って確認してみるまでもなく、それは大き過ぎるようだった。

「ルーシィにはぶかぶかだろ」
「そうか?んー、じゃあ、靴じゃなくても何かに使えるだろ」
「お前目的見失ってるぞ」

『ルーシィにぴったり合う靴を用意する』はずが『何でも良いからルーシィにあげたい』に変わっている。ナツが構わないのならそれで良いだろうが、グレイは釈然としない心地で首の後ろを撫でた。
ナツはガラスを両手に持ってぶんぶんと振り回し始めた。「まだ熱いよなあ」とぼやく。

「グレイ、冷ましてくれ」
「はあ?氷で冷やしたら割れるだろうが」
「そこをこう、上手い感じに」
「どういう感じだよ」

聞いてやる義理もないがそのいい加減な要望が逆に挑戦されている気になって、グレイは彼の手の周りに氷の覆いを作ってやった。ナツ側に複雑な模様を付けて、表面積を増やす。
冷気が目に見えるほどに立ち上がったのを確認して、グレイは口角を上げた。

「こんなもんだろ」
「こんなんで冷えんのか?」
「冷えてんだよ!」
「じゃあお前、ちょっと触ってみろよ」
「触れるわけねえだろ!」

おそらくまだ湯を沸かしたヤカン以上に熱いはずだ。
氷の造形魔導士であるグレイは他人より熱に弱い。ナツが押し付けてこようとするそれを、自分でも大袈裟だと思う程大きく避ける。

「ぐっ、てめえ!」
「何カッコ付けて避けてんだよ!おら!」
「ああっ!?カッコ付けてなんか……っ」
「また!何だよ、なんかムカつくな!普通に避けろ!つか大人しくしてろ!」

チンピラのような物言いで、ナツが突っかかってくる。殴って止めようかと思ったが、ガラスがこちらに飛んできては敵わない。
何度目かの回避行動の最中、グレイはギルドの入り口に金髪が入ってくるのを見付けた。






サッサッサッ。


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