「何やってんの」
「どうしたら良いんだよ」
困るナツもわかる。怖がられるように接するなど、ルーシィにだってどうしたら良いかわからない。
良い考えを探して視線を巡らせると、そこかしこの建物の陰から子供がちらちらとこちらを窺っているのに気付いた。どの子の顔色も、青い。
他の子とのあまりの違いに、ハッピーが感心したような声を上げた。
「ナットはホントにナツのこと怖くないんだね」
「怖くなんてないよ!」
ナットはハッピーに胸を張った後、ナツを見上げた。
「ナツだって怖いモンなんかないんだよね!」
「あるぞ?ルーシィとか」
「ちょっと!?てかアンタ、あたしのこと怖くないって言ったばっかりじゃない!」
盛大な裏切りに思わず手が出る。ナツの頭に振り下ろしたチョップが桜色に埋まった瞬間、ルーシィは確かに彼の口角が上がるのを見た。
「うがっ!」
「あっ」
ナツがわざとらしくその場に倒れる。演技なのは明らかだったが、ナットへの効果は抜群だった。
「な、ナツが……一撃で……」
「え、ち、違うわよ。これは冗談で。ほら」
ナツの襟首を掴んで持ち上げる。ナットが悲鳴を上げた。
「白目剥いてるー!」
「へ。ちょっとナツ!無駄に気合入れて演技すんな!」
「ルーシィ、ちょっとは手加減してよ。いつもこれじゃあ、ナツが死んじゃうよ!」
「アンタもいつもとか言ってんじゃないわよ!」
ナツとハッピーの共謀はルーシィを簡単にはめた。ナットが目を潤ませて逃げ出す。
「怖ぁああああいぃいいい!!」
「ちょ、待って」
「ぎゃあぁあ!」
「わぁああ!」
こっそり見守っていた子供達も、ナットの恐怖が伝染したように泣き始めた。阿鼻叫喚の広場は一人が走り出したのを切欠に蜘蛛の子を散らしていく。
「いやだぁあああ、追いかけてくるぅうううう!!助けておじいちゃぁあああんんん!!」
ナットを抱きとめて、村長が優しく頭を撫でる。
「うん、怖い怖い」
「え。あの」
「さあ、もう暗くなってくる。家に帰ろう」
「えぐ、えぐ……」
「ご飯しっかり食べてお風呂に入ろうな。悪い子はルーシィさんが」
「良い子にするぅううう!」
村長は良い笑顔でびっ、と親指を立てた。報酬なのか茶色い封筒を懐から取り出して、その場に置く。声には出さなかったが、口の形だけで『ありがとう』と言っているのがわかった。
「よしよし」
「うわぁああん」
薄れていく泣き声を呆然と見送る。
ナツがむくりと起き上がった。
「一件落着だ」
「ちっとも落着してないわよ!?」
「あー、今日の仕事も面白かったな」
「面白くない!!」
軽く叩くと、ナツがまた大袈裟に倒れる。まだ居たらしい子供がひぃっ、と息を飲むのが聞こえた。