「……」
「ぐおー!」

反応がなかったためか、それはもう一度凄んで足を踏み鳴らした。しかし当然のように無音の場に風が吹く。
十分に固まった後、ナットがぽつりと「何、この変な人」と呟いた。

「うぐ」

仮面の男――声からしてナツなのは明らかだが――が怯んだように喉を鳴らす。ルーシィはマントを掴んだ。

「おい?何だよルーシィ?」
「ちょっと待っててねー」

ナツが抗議するのを無視して、ハッピーと一緒に広場の端に移動する。十分に距離が取れたところで、仮面を指で弾いた。

「これなに?」
「怖いだろ?」

不気味ではあるが、何に分類されるかというとナットの言うとおり『変な人』だ。ハロウィンの仮装よりもおそまつな雰囲気でさえある。
「真夜中に遭遇したら怖いかも」と言ったハッピーに、ナツは同意を得たとばかりにこくりと頷いた。

「な?ルーシィ、見本見せてやれよ。ほら、怖がれ」
「きゃ、きゃー?」
「大根」
「うっさい!」

仮面の下から大きな溜め息が聞こえてくる。ナツはそれをぞんざいな仕草で外すと、マントも一緒に投げ捨てた。

「ルーシィがそれじゃあダメだな。違う手を考えるか」
「あたしのせいにすんな!」
「次はそうだな……。ルーシィ、バルゴ呼べ。下から派手に登場してやる」

エバルー公爵を思い出して、ルーシィはひくりと頬を引き攣らせた。

「それ、驚かすだけじゃない。怖がらせはしないわよ」
「あ。言われてみれば」
「ナツ!」
「お?」

広場の端と言っても、遮るものもない。姿を現したナツにナットが駆け寄ってくるのは当然と言えた。嬉しそうに両手を振って、そのままナツに体当たりする。

「おっと」
「ナツだ!本物だ!火ぃ出して!」
「ほれ」
「うわあああ、カッコイイ!!」

ナットの興奮を受けて、ナツがくるりとこっちを振り返った。負けず劣らずキラキラした瞳を、ルーシィに向けてくる。
本人は自慢のつもりだったかもしれないが、どう見ても喜んでいるだけにしか見えなかった。はいはい、と軽くあしらってから、両手を上げる。

「懐かれてどうすんの」
「う」

ナツの視線が村長へと動く。孫に甘い顔をした彼は、のんびりと両拳を見せた。頑張れ、ということらしい。

「んん……お前」
「ナットだよ!五歳!」
「ナット、オレは」
「一緒に遊ぼう、ナツ!」
「へ?」
「今日ね、おやつにね、ビスケット食べたの!」
「え、あ、うん」

子供特有の話題の跳ね方に、ナツが明らかにペースを乱されている。情けなく眉を下げた彼に、ルーシィは堪らず吹き出した。






戸惑う新人保父のようだ……。


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