「それだけ活躍が印象的だったんだよ」

物腰の柔らかな村長が困ったように笑った。村の代表という割には随分と若く感じる。見た目よりも、声に張りがあるせいかもしれない。

「大魔闘演武のために、大型魔水晶ビジョンを設置してね。村総出で観覧会だよ。いやあ、凄かった!」

ぷくりと膨らんだナツの頬は、彼の賛辞を跳ね返すようだった。何も言わずそっぽを向く。
それを横目で見て、ルーシィはこっそり溜め息を逃がした。あまり不機嫌にならないうちに、仕事の話をすることにする。

「で、依頼というのは?」
「それが……まあ何と言うか、うちの孫のことで」
「お孫さん?」

村長は壁際の棚から写真立てを取った。やんちゃな笑顔を見せる、5歳くらいの男の子が写っている。

「ナットというんだ。この子を、怖がらせてやって欲しい」
「はい?」
「もう十分怖がられてたよ?」
「む」

膝の上で頬杖を突いたナツの眉間の皺が深くなる。村長はふるりと首を振った。

「ナットはナツ君と名前が似ているというのもあって、大ファンでね」
「ん?」
「この子だけは、脅し文句が効くどころか、『そんなことで来るんなら会いたい』などと言っていて」
「微笑ましいじゃないですか」

それで進んで悪さをするのならば笑っていられないのだが、子供のすることだ。多少言うことを聞かない程度ならば、可愛らしいで済む。
村長は首を擦った。

「ただ……他の子達との温度差が凄くてだね。ちょっと浮いているようなんだ」
「はあ」
「少しでも怖がってくれたら良いんだが」

確かに、あんな中で一人ナツに会いたいなどと言っていたら、仲間はずれにも程があるだろう。もしかしたら、名前を出すだけで嫌がられているかもしれない。
ナツがぱしん、と膝を叩いた。

「よし、わかった。やってやる!」
「おお、ありがたい!」
「良いの?」

ナツにとっては味方のようなものだ。しかし彼はあっさりと首を縦に振った。

「困るだろ、友達いねえと」
「そうね」

ナツは根本が優しい。ルーシィは嬉しくなって、にっこりと笑った。

「じゃあ、さっそく」
「村の広場に居るはずだ。案内しよう」
「待て。オレにも準備がある」
「え?」

制止するように向けられたナツの手のひらに、ルーシィとハッピーは同時に首を傾げた。




「あっ、知ってる!ルーピーだ!」
「ルーシィよ!」
「悪いね、ナットはナツ君以外に興味がなくて」
「それフォローなんですか!?」

名前を間違えてくれはしたが、「ギルドマーク見せて!」とせがんでくるナットは無邪気で可愛い。応じたルーシィの手を掴んで、彼は期待に満ちた瞳を輝かせた。

「ねえ、ルーシィ一人?ナツも来てるの!?」
「ええっと」

先に行っててくれ、と言われたが、準備とやらにどれくらい時間がかかるのかわからない。
どう言おうかと考えていると、ざざっ、と地面が土埃を巻き上げた。

「え?」

現れた人物は、民芸品のような木の仮面を着け、黒いマントを靡かせている。

そして、両手を広げた。

「ぐおー!」






熊のように。


次へ 戻る
main
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -