村に到着すると、看板の脇で子供達が遊んでいた。

「おう、お前ら、村長の家ってどこか」
「ぎゃあぁああ!でたぁあああああ!」
「へ?」

反応素晴らしく、一目散に逃げていく。
呆気に取られて、しばらく言葉が出なかった。

「な、なに?どうしたの?」
「……ルーシィ、お前……」
「あたし何もしてないわよ!?」

ナツが唐突にかけてきた濡れ衣に、ルーシィは頬を引き攣らせた。
ルーシィは容姿に自信がある。初対面で好意を持たれこそすれ、叫ばれるなどとは思っていない。

「排他的な慣習でもあるのかしら。ほら、余所者はー、みたいな」
「言い訳だ」
「だからあたし何もしてないってば!」

しかし否定している間に、ルーシィはロキやエドラスのナツのことを思い出した。また自分の知らないところで逃げられる理由でもあるのかもしれない。

「……わかんないけど」
「あ、認めた」
「認めてない」
「大丈夫だ、ルーシィ。オレはルーシィ怖くねえから」
「慰めるな!」

肩に置かれた手を払い落として、ルーシィは時間をかけて息を吸った。吐き出したときには、大きい溜め息となる。

「とにかく、村長さんの家を探すわよ」
「だな。あ」

ナツがぴくりと反応して、顔を横に向けた。視線を追うと、木の陰からこちらを窺っている子供が居る。

「よし、ルーシィはここで待ってろよ」
「……」

原因だと決め付けられてむっとするも、ルーシィは黙って従った。ナツがそろりと木に近付いていく。
7歳くらいだろうか、健康そうに日焼けした男の子だったが、その顔色は完全に青褪めていた。

「ひっ」
「あー、怖がんな。大丈夫だから」
「悪霊退散……!」
「悪霊?」

ぷるぷると震えながら十字を切って、子供は小刻みに首を振った。

「野菜食べる!言うことも聞く!だから来ないで、ナツ・ドラグニル!」
「へ?オレのこと知ってんのか?」
「うわあああん、僕美味しくないよー!」
「お、おい?」

とうとう泣き出した子供を前に、ナツが焦っているのが背中からでもわかる。ルーシィはハッピーにこっそりと耳打ちした。

「怖がられてるの、ナツよね?」
「みたいだね。ナツ、オイラが聞いてみるよ」
「ん、んん……」

ハッピーがナツをさがらせて、「オイラ、ハッピー!」と無邪気な挨拶をした。猫の姿に、男の子の涙が止まる。
ナツがむぅ、と下唇を突き出した。

「何だよ、あれ」
「うーん……」

ナツは確かに善人面というわけではないが、生来の雰囲気が人懐こく、子供に嫌われることはまずない。

「知ってたってことは……多分演武見てたんじゃないかと思うけど。それであの反応ってのもおかしいわね」

ナツは少なからず傷付いたようで、瞳に光がなかった。拗ねたように、足元の石を蹴る。
男の子が走って逃げた。

「っ!?当てねえよ!?」
「違うよ、ナツ。話が終わったから帰ったんだ」

ハッピーがとてとてと戻ってきた。東の方向を指で差す。

「村長の家、あっちの一番奥だって」
「それより、なんでオレがあんな怖がられなきゃなんねえんだよ?」

ハッピーはにゅるりと尻尾を動かした。

「この村じゃあ、悪い子はナツ・ドラグニルにお仕置きされるって言われるんだって」
「はあ!?」
「え、しつけってこと?」
「みたい」

ナツのあんぐりと開いた口が、力なく閉じていく。ルーシィは依頼書に書かれていた『ナツ・ドラグニルを指名』の文字を思い出していた。






なまはげナツ。


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