「……想像つかないわ」

思考回路がぷつりと途切れているかのように、何も思い浮かばない。
ジュビアはさすが妄想癖の持ち主だけあって、すらすらと言葉を並べ始めた。

「気に入った相手はすぐに手元に置きたがると思う」
「え、んん……そうかもね」
「全力で守りそう」
「あー……」
「どこに行くにも一緒」
「んー……」
「スキンシップ激しい」
「……」

何か、ざわりとしたものが胸の中を駆け巡る。理由もなく――少なくともルーシィには――不安になって、テーブルの下で拳を握った。

ナツが恋するとしたら、相手はどんな子なんだろう。近くに置いて、大事に守って――?

想像の中で輪郭を持たないその子が、たまたま目に入ったせいでグレイの顔になった。肩を組む光景だけは容易にイメージできて、瞼が半分下りる。

「ルーシィも何か思うことはないんですか」
「へっ?え、あー……」

なんとか捻り出そうとするも、ルーシィの中でナツと恋が直結しない以上、結局、一般的なことしか考え付かない。

「んー、恋ね……どう接して良いかわかんなくておたおたするとか?」
「ジュビア、しないと思う」
「そっかな?でもほら、えーと、相手の前に出ると赤くなったり」
「よっぽどのことがないとしないと思う」
「うーん」

自分でもナツに当てはまるかどうかというと自信がないのだが、それよりジュビアがはっきりと否定してきたのが気にかかった。ナツと一緒に居る時間はルーシィの方が断然長い。彼女よりはナツのことを理解しているつもりだった。

「随分きっぱり言い切るわね」
「ルーシィに対するナツさんを考えれば、簡単」
「ふうん……ん?」
「あ、でも、自分でも恋だって気付かないっていうこともありそう」
「えっ、何その鈍感」

恋とは心がときめくものではないのだろうか。残念ながらその経験がないルーシィにとっては想像でしかないが、ジュビアやレビィを見る限り、気付かないというのは相当鈍いと思えた。

「うーん、でもまあ、ナツだしね」

何か引っかかる――聞き捨てならないことを流してしまったような――が、肩を竦めたときにはその違和感は霧散してしまった。やはり、ナツと恋愛との間に大きな隔たりを感じる。

「ナツが恋なんて、やっぱりしないんじゃない?」
「しない人間なんて居ません!」
「もう、ナツをモデルにするなら、もっと女の子に興味がないくらいでも良いよ」

そんな主人公ではさすがに一般的な価値観から逸脱してしまって感情移入しにくくなるだろうが、ナツを恋に近付ける方が難しいとルーシィは結論を出した。肩の荷が下りたような心地で、イスの背もたれに身体を預ける。
ジュビアは不満げに目を細めた。

「なんでそんなにラブを否定するんですか」
「否定はしてないわよ。でもナツの、って考えるとね……なんか」
「……ナツさんを他の女に取られるみたいで、イヤだとか?」
「はい?」

「そんなわけ」と言いかけて、ルーシィは間を置いた。考える。

「……ちょっと、イヤかも」
「ルーシィ、ナツさんのこと」
「そっ、そういう意味じゃないよ。ナツのイメージが崩れるのがイヤだってだけ!」

きらりと光ったジュビアの目に、慌てて両手を振る。ルーシィは小さく咳払いしてから続けた。

「あのナツの隣に誰かなんて、想像したく……できないよ」
「居るじゃないですか」

どこか痺れを切らしたように、ジュビアが身を乗り出してきた。

「ナツさんがいつもそばに置いて、誰よりも手を伸ばしてる。全力で守って大事にしてる。そんな存在、居るじゃないですか」

ジュビアの瞳がルーシィを強く導く。吸い込まれるように息をのんで、そして。

気付いた。

「あ、マフラーだ」

季節を問わず常に首に巻いて、大事にしている。どこに行くにも何をするにも、一緒。

「でもそれ、恋に置き換えるのはどうかと思うわよ」
「……ルーシィって可哀想」
「え?」

ぴくりと眉が跳ねるも、ジュビアは何故か本気で哀れんでくれているらしい。腹が立つよりもただただ理解できない。

「何よ、それ?」

ゆるゆると首を振って、ジュビアはこれ見よがしに大きな溜め息を零した。「まあ、頑張ってください」と言い残して、グレイの元へ行ってしまう。
戻ってこない背中は諦めるよりない。原稿を手繰り寄せ――ルーシィは作中の主人公の名前を、人差し指でなぞった。

「恋、ね……」

マフラーがナツに大事にされていて少しだけ羨ましい、と思ったのは秘密にして、ルーシィは紙の束を手早く鞄にしまった。






ジュビアが匙を投げるレベル。
お付き合いありがとうございます!



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