エルザはこちらのことには気付いた様子もなく、幸せそうな顔でイチゴの乗ったショートケーキを突いている。ギルドでは良く見る光景だ。
ルーシィがナツに目で問いかけると、彼はぱたぱたと手を振った。
「あ、なんでもなかった。エルザがシャルル食ってると思ったけどケーキだった」
「なんでそんな見間違いするの!?」
「どっちも白いだろ」
「色だけで判断するな!」
皿に乗った白い猫を想像してしまってがくりと肩が落ちる。からりと笑って、ようやく、ナツがフォークに手を伸ばした。
いよいよね。
頬がむずむずする。笑ってしまいそうになって、ルーシィは両手で口元を隠した。そのまま、さりげないつもりで肘を突く。
どこを見ていれば自然か考えている間に、フォークの先がチカリと光った。ファイアパスタを反射した、炎の色が一瞬だけ輝きを放つ――。
ナツが飛び跳ねた。
「うぉおお!?」
「きゃあ!?」
炎が噴射された――と思ったのは間違いだった。ファイアパスタが飛んでくる。
避わせたのはほとんど奇跡だった。自分の反射神経に感謝する余裕もなく、椅子から転げ落ちる。
なんとか体勢を立て直したときには、ナツの姿はかなり遠くにあった。どこをどう移動したのか、ラクサス達の居るテーブルへと突っ込んで、がしゃん、と酒のようなものをぶちまける。
「あ」
「ふぎゃああああ!」
フォークはビリッとするくらいだったはずだ。今落ちた雷に比べると、虫に刺された程度の。
黒こげになったナツは床に倒れたまま動かない。手からフォークが落ちて、からんと音がした。
「ここまでするつもりはなかったんだけど……」
ルーシィはとりあえず彼を観察すべく、恐る恐る近寄ってみた。不機嫌そうな顔で椅子にふんぞり返るラクサスの横で、ビックスローが舌を出す。
「そうだ、さっきの話だけどよ」
「え?」
なぜに今なのか。ナツの存在がなかったかのように話し出すビックスローに、ルーシィは首を傾げた。彼の周りには人形達が「さっきのはなしー」「はなしー」と飛び交っている。
「ナツ達のイタズラ、嬢ちゃんが入ってからは嬢ちゃんだけが標的になってるって聞いたぜ?」
「はい?」
「よっ、避雷針」
「何それ……」
ラクサスがぱり、と放電する。それに怯みつつ、ルーシィは頬に手をやった。決して嬉しいことではないのだが、自分だけと言われると特別扱いされているようでドキリとする。イタズラが成功したときのナツの笑顔を思い出して、胸が熱くなるのを感じた。
本当かな。って言うか、なんであたしだけ?
ルーシィはハッピーを振り向いた。ナツはこの有様なので、彼に訊くしかない。と、そこで気が付いた。
猫の姿がない。
「ハッピー?」
「あい」
返事は真上から聞こえた。視線を上げて瞬時に、なぜビックスローがそんなことを言い出したのか理解できた。
落ちてくるタライを避けることは、出来なかった。