まあ良いわ。気を取り直して。
「読んでみない?」
「面倒くせえなあ。ルーシィが読んでくれ」
「……朗読しろと?」
なんかガッカリ。あたしは二人並んで一緒の本を読む、っていうのがやってみたかったのに。
机の椅子を引く乾いた木の音が虚しい。でも座ろうとしたとき、ナツが不思議そうに首を傾げた。
「隣来いよ」
「え」
「え?見えねえだろ」
……そっか。一緒に見てくれるんだ。
「えへへ」
「何だよ、そんな楽しみにしてたんなら読めば良かっただろ」
違うわよ。でもそういうことにしとく。あたし今足取り浮かれちゃってるし。
隣に座ったら、ナツが本を覗き込んできた。んふふ、なんか良いなあ、こういうの。
「ええっと、タイトルは――」
「そこはもう読んだ。次のページ行ってくれ」
「自分で読んでるじゃないの」
冒険譚かな、それとも――って、え?
「わあああ!?」
「おわっ!?」
い、今!なんか挿絵が……!
「いきなり大声出すなよ。そんなセリフあったのか?」
「いや、ちょ、ちょっと待って」
「何だよ、持ってくなよ」
心臓がばくばく言ってる。待って待って。今チラッとだけ、他のページが見えた。緻密なタッチで描かれた挿絵だったけど、えと、見間違いだったら良いんだけど!
あたしはナツから見えないように、そっとそのページを、ほそーく開けてみた。一気に顔に熱が上がる。
ベッド。男女。
「こ、こんなシーンあるの……?」
「どんなシーンだよ?めちゃくちゃ気になるじゃねえか、見せろ」
「ひゃあ!」
伸びてきたナツの手を思わず叩き落す。だ、だってこんなの、一緒に読むなんて無理!
「え、えと。これじゃないのにしない?」
「あ?」
「違う本にしよ!ね!あ、そうだ、おススメの面白い本あるから!確かドラゴンっぽいのが出てたような出なかったような」
あ、やっぱり出てないわ。でも良い!最後まで読まないとわかんないし!
「じゃあこれ貸せ。自分で読むから」
「面倒くさいって言ってたじゃない!」
ナツが読むのもなんかヤダ。て言うか、あたしがイヤだと思った理由を知られるのもヤダ!
ええい、こうなったらとりあえず注意を逸らす!
「あっ、あれ何だろ?」
「ん?」
ナツは難なくあたしの指した方を見てくれた。けど。
「ほっ」
「へ?」
本の重さがなくなる。嘘、引っかかったフリして逆に死角を突いてきた!?